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少年航空兵として空を飛びたかった父親 人生に悩む娘にかけた『ひと言』が、深い

By - grape編集部  公開:  更新:

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※写真はイメージ

2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。

今回は、応募作品の中から『パイロットになりそこなった父の名言』をご紹介します。

私の中で長らくモヤモヤしてきたことがあります。

“平凡”って何?ということです。

それって価値観?

辞書を引くと“これといったすぐれた特色もなくごくあたりまえなこと”とあります。

ごていねいにも“平々凡々”なんて強調する言葉まである。

その物差しっていったいどこにあるんだろう。

そんな曖昧な疑問を誰にもぶつけたことはなかったけれど、山あり谷ありの人生を歩む中で最近ようやく私なりの答えを見つけた気がします。

「平凡という名の非凡」。

世の中は個性の集合体なんだ、平凡ということ自体が稀なんだと考え至りストンと腑に落ちたのです。

自分に都合の良い極論かもしれませんけれど。

前置きが長くなりました。

私は幼いころから人と同じというのを好みませんでした。

幼稚園の写真を見ると一人だけスモック(制服のうわっぱり)を着ていません。

どうやら皆と同じなのが我慢ならんとばかりに登園するなり脱ぎ捨てていたらしいのです。

はい、すでに非凡(笑)。

今となってはそんな自分勝手を許してくれた先生方にも感謝せねば。

ちなみにカトリック系の幼稚園でした。アーメン。

そんな私ですから、好きなこと、やりたいことだけを選んで好き勝手に生きてきました。

結婚しました。離婚しました。職業もいろいろ。

平凡なんて言葉とは無縁のジェットコースター人生です。

人からは個性的とか変わってるねとか思われている節あり。

だからいろいろなことで何度もつまずきを経験し、当然、両親にもたくさん心配をかけました。

20代前半、一番か二番かという大きな挫折を経験した時、生まれて初めて父(故人)に悩みを打ち明けたんです。

私は一人っ子のひとり娘で、海外出張が多かった父とは正直いわゆる腹を割った話というのをしたことがありませんでした。

なぜ自分があの時父を頼ったのかいまとなっては思い出せません。

それは具体的な相談という形ではなかったと思います。

行き先を見失っている、そんな気持ちをただ聞いてほしかったのかも。

とにかく苦しくて苦しくて、どういう生き方をしたらいいのかわからない、迷子になっちゃった…そんな曖昧で的を射ない話だったような。

その時の父の助言が私の一生の道しるべになるなんて、あの時は思ってもみませんでした。

でもそのあと何度もつまずいて、その度に父の言葉が私を救ってくれたのですから、これはもう私だけの宝ものです。

頭のすみに心の中に常にこびりついています。 

ありきたりに言えば座右の銘です。

いわく「低空飛行というのはかなりの技術を要するんだ。墜落しないギリギリを飛ぶんだからな。墜落しない自分に自信を持っていいんだよ」。

父は第二次世界大戦時、少年航空兵としていざ飛ばんというタイミングで終戦を迎えた人。死んでも飛びたかったとのたまうような人でした。だから妙に説得力あり。

それにしても、こんなに優しく勇気を与えてくれる言葉があるでしょうか。

不器用な父の愛情を受け止める感受性を幸いにも持ち合わせていた私です。

以来、壁にぶつかった時にその言葉を思い出しては明るく強く乗り越えてきました。

父には心から感謝しています。存命のうちにそれをちゃんと伝えられなかったのですが。

平均寿命から逆算すると私の人生もあと二十年というところ。人生のラストステージにもう戦うべき相手もいません。

今は機首を上げて安定した高度を保って飛行中。もちろん平凡を良しとしない日々を楽しんでいます。

あ、“新しい生活様式”にはまだ馴染みませんが。

最近では若い人の相談に乗る時、さも自分の言葉のようにあの名言を使わせてもらっています。

父がそれをどんな顔で天国から眺めていることやら。 

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『パイロットになりそこなった父の名言』
作者名:みまさかまどか

エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!

2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。

さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。

心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!


[構成/grape編集部]

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