Twitter発信で売上1000倍!京都の螺鈿職人が語る螺鈿の魅力と奥深さ
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新型コロナウイルス感染症(以下、コロナウイルス)は、観光地や旅行代理店、飲食店などさまざま業界に打撃を与えています。
伝統工芸の世界も例外ではありません。京都府・嵯峨嵐山にある螺鈿(らでん)ジュエリーショップ『嵯峩螺鈿野村(さがらでんのむら)』は、コロナ禍で売上が激減。窮地に立たされました。
そんな状況を激変させたのが、同店の螺鈿職人・野村拓也(33)さん。野村さんは2020年7月15日に個人でTwitterアカウントを開設。螺鈿の魅力や作品、作業工程などを写真や動画と共に発信し続けました。
螺鈿職人・野村拓也さん
その結果、これまで螺鈿を知らなった若者から注目を集め話題に。8月には昨年のオンラインストア売上1000倍以上という記録を打ち立てたのです。
Twitterから始まった奇跡の復活劇や、奥深い螺鈿の魅力について、野村さんにお話をお聞きしました。
Twitterで売上がV字回復!
『嵯峩螺鈿野村』は、1910年に野村さんの曽祖父が二条城の近くで創業。
現在の嵯峨嵐山に工房を移し、現在は3代目代表の父と姉、野村さんの3人が職人として製作しています。店頭販売のほかオンラインストアも運営しており、店頭では『螺鈿・蒔絵体験』も参加できます。
『嵯峩螺鈿野村』
野村さんは、大阪大学外国語学部在学中にアメリカ・LAへ留学。その後、大手スポーツウェアメーカー・株式会社デサントに就職しました。
家業を継いだのは29歳になる2016年のこと。インバウンド需要が高まっていたこともあり、英語が堪能な野村さんは接客から多言語案内のパンフレット制作、海外展開に関わりながら、職人としての修行を始めました。
またデサント時代のモノづくりや営業の経験をいかし、経理やSNSの管理、消費税表示への対応などさまざな業務を自発的に行ってきたといいます。
『嵯峩螺鈿野村』がこだわる色味と輝き
螺鈿の製作工程
そもそも螺鈿とは、一体どういった技法なのでしょうか。
螺鈿とは貝殻の内側の真珠色に輝いている部分を、木地や漆器などのそれぞれの形に合わせて薄く切り、『漆で重ねて研磨していく装飾技法』のこと。
――切った貝を木地や漆器に『はめ込む』という表現も使われるが、正確には『重ねて研磨していく』?。
漆を塗る作業。
野村さん:
貝の部分が漆器より沈んで見えるので、『貝をはめ込む、埋め込んでいる』と思いますよね。
そういう技法もあるのですが、当店で行う技法の多くはそうではありません。当店では、まず漆器や木地に漆を塗ります。
漆がのりの役目になるのですが、漆の上に貝をのせたら、更にその上に漆を塗ります。つまり、漆と漆の間に貝が挟まれている状態。
そして貝の上の漆だけを研磨して取っていきます。これを繰り返すと表面が均一になり、貝以外の漆器部分には漆の分だけ高さが出るので、見た目には『漆器に貝がはめ込まれている』ように見えるのです。
――漆と漆の間に貝を挟んで研磨していく作業はとても大変そう…。
細かな作業を行う野村さん
職人泣かせの手間がかかる作業です。商品のグレードによっては、1つの作品に60~100の工程があり、完成までに3か月かかるものもあります。
比較的安いものは木地の塗りを簡素化するなど、グレードに合わせて工夫し、工程を変えています。
――螺鈿作品を製作するにあたり『嵯峩螺鈿野村』でこだわっていることは?
野村さんの父の作品『螺鈿大棗華七宝』。数十枚の貝を使用して鮮やかな色味を出している
通常は1種類の貝から色を切り取りますが、うちでは5種類の貝を使っています。
日本の貝か、海外の貝か。また貝の種類によっても色味や輝きが全然違います。ビビッドなマゼンタピンクだったり、淡い優しいピンクだったり。
1枚の貝から美しい色味が取れるのはわずか1割2割なので、厳選して色味を確認していますね。
――製作していて難しい部分はどんなところ?
幾何学模様のネックレス
色味もそうですが、切り出す角度によって美しく光らないものもあります。
デザインによっては立体的に切り出さなければいけないし、ネックレスは正面から見た時に一番輝くように計算するのが難しいです。
例えば三角形の形でも、無作為に切るのではなく、どこを頂点にするかで色も光もかなり変わってきます。
『美しく見える位置』を確認しながら貝を削り、重ねていかなければなりません。大変ですが、『他の人がやらない、できない作業』をするので価値がありますし、その手間隙は作品を見ただけで伝わります。
コロナで観光客が激減するもTwitterで…
発色が美しいピアス/イヤリング
美しい螺鈿作品は海外観光客の目を引き、去年まではインバウンド需要が多くありました。
しかしコロナウイルスの影響によって、状況は一変します。
――コロナによって、売上はどのように変化した?
野村さん:
(2020年)1月や2月は、店頭のお客様が少なくなりつつも、まだ日本人観光客の『螺鈿・蒔絵体験』が何組か入っていました。
しかし3月後半の連休明けからパタンとお客様が減りまして…4月、5月、6月は売上がゼロに近い状態でした。
――Twitterを開設しようと思ったのはこの頃?
FacebookやInstagramの店舗アカウントは数年前からありました。
4~5月頃に、他業種の店が「オンラインストアで売上を挽回した」というニュースを見ていたので、「何かしなければ」と思ってはいました。
ほかに広告を試したりもしましたが、あまり結果は出ませんでしたね…。
それでも、コロナでなくなってしまった売上をなんとか挽回するために、7月15日に個人名でTwitterを始めました。
――Twitter開設は、ご家族に相談して決めた?
いえ、家族には知らせず勝手に始めました。
「こういうことはいわないで。この写真は使わないで」など、口出しをされたくなかったので…。
――野村さんの投稿や螺鈿作品の写真、ハッシュタグなどが話題に。
投稿を始めて、約1か月後の8月18日。
この日のツイートに対する『いいね』が7万5千以上、リツイートは2万以上と多くの方に見ていただけました(11月26日現在)。
――売上や客層はどのように変化した?
恥ずかしながら、去年8月のオンラインストアの売上は8千円ちょっと。知り合いや身内、昔からお付き合いあるお客様の売上がメインなので、オンラインストアはコロナ前でもこの状態でした。
しかしTwitterを始めてから、今年の8月はオンラインストアの売上が去年の1000倍以上に!
男性に人気のネクタイピン
これまでは60代のお客様が中心でしたが、Twitterの反響で20~40代のお客様が増えました。男性のお客様がメンズアクセサリーを、若いカップルがペアリングを購入してくださることも!
またお店にもお客様がいらっしゃるようになりました。20代・30代のご夫婦や、週末には学生さん。『螺鈿・蒔絵体験』も午前・午後ともに体験予約が入るようになりましたね。
以前は一度に12人まで受け付けていましたが、今はコロ対策として8人に制限しています。商品も店頭で買っていただき、本当にありがたい。
去年の外国人観光客が来ていた頃以上に、お客様が増えた印象です。「今日は営業していますか?駐車場はありますか?」といった、お電話もよくいただくようになりました。
――急なV字回復に、ご家族は驚いたのでは?
家族は最初は何が起きているのか、分かっていなくて。
「東京からお客さんがお見えになったけど、友達に紹介したんか?」といっていましたね。
今はお客様にTwitterをご覧いただき、『嵯峩螺鈿野村』を知っていただいていることを把握しています。
大人気商品は野村さん製作の『シルバーリング』
Twitter開設により、一躍有名となった『嵯峩螺鈿野村』の作品。
中でも人気なのは、職人歴5年の野村さんが手がける『シルバーリング』です。3号~23号までと幅広いサイズに対応しているため、男女年代問わず喜ばれています。
色味にこだわった野村さん製作のシルバーリング
実はこの『シルーリング』は、2016年に野村さんが家業を継いだ際、初めて製作した思い入れのある作品なのです。
――『シルバーリング』を初めて製作した時の思い出や、こだわった点は?
野村さん:
最初は父が作っているのを真似して練習しました。何個か作って、初めて自分でデザインし、貝の切り方や、貝を切る道具などもオリジナルのものを作っていきましたね。
「今までにない物を作りたい」と思って工夫しました。例えば、貝の色はだいたいピンクとグリーンの2種類なのですが、僕の指輪は欲張って4種類にしたり。
色味は貝から切り取るので、ほかの職人さんが「色を分けるだけでもよくやってるな」と認めてくださる。
4種類の色で作ることでカラーバリエーションも広がり、お客様にも「どれにしようか」と選んでいただけます。
――苦労した点や大変だったことは?
指輪は初めての試みだったので、「どのサイズの号数を揃えたらいいのか」が分かりませんでした。
「7~11号くらいがいいのでは?」とアドバイスをいただきましたが、実際は50~70代のお客様も多く、節や関節が太くて指が入らない方もいました。中には「13号や15号がいい」という要望も。
ネックレスならいろいろな大きさに対応できますが、指輪は、1つ作るためにサイズの幅を広くとって提案しないといけない。
さらにカラーも4種類なので、在庫の効率が悪い。「せっかく作ったのにお客様の指に入らない」「買う気満々だったけど、サイズが合わないから買えない」といった、悔しい経験もしました。
指輪の難しさを知ったというイメージでしょうか。
――3号〜23号とサイズ展開したことで、幅広い層に対応できるようになった?
4種類のカラーと幅広いサイズ展開で人気商品に
23号などは、小さいサイズと同様に実際に売れています。
指が太くてコンプレックスをお持ちの男性からご注文があります。また指輪市場は、ドクロや十字架などのデザインが多いのですが、「もう少し変わったデザインがいい」「落ち着いたお洒落なデザインがほしい」といった、「指輪のマーケット市場にはなかなかいないけれど、指輪を楽しみたい」というお客様も多いのです。
『シルバーリング』はすごく人気なので、2021年2月までは制作を待っていただいていて、現在は予約制になっています。
「螺鈿のシルバーリングなんて見たことがない」「とっても綺麗」「一目惚れした」といった、嬉しいお声を頂戴しています。
「ちゃんと伝え方を考えて発信すれば足を運んでくれる」
三角形の切り出し方ひとつで輝きが変わる
――若い世代にさらに知ってもらうために、また螺鈿職人を増やすためにどんなことをしていきたい?
野村さん:
伝承していくことが大切だと思い、体験事業に力を入れています。学校への出張体験授業を行っているほか、ニュージーランドなどの海外の学生を受け入れている高校の文化体験アクティビティとしてご依頼をいただくこともあります。
またTwitterで発信することも大事だと思います。
職人の世界は『見て覚える』ということが多いですが、言語化して発信することで、後の若い職人たちが僕の発信した情報を取捨選択してくれたらいいなと思います。
僕の情報が、彼らの問題解決につながったり、気持ちが楽になれば嬉しいですね。
――職人の世界でTwitter発信を行うことは、勇気が必要だったのでは?
発信することで、同業の方から文句をいわれたり、デザインが盗まれることを気にする職人さんもいます。
ただ、コロナでそういうこともいっていられなくなりました。そうしないと「なくなってしまう」ところまで追い詰められたのです。
でも発信したことで、Twitter上で「頑張ってね」「応援しています」と声をかけてもらう機会が増えました。誹謗中傷よりも、ほとんどが応援メッセージです。
皆さん、「伝統工芸がピンチだ」ということは知っていたけど、僕が発信したことで「応援したい」という気持ちを持ってくれた。そういったお声を頂けるので頑張れます。
「ちゃんと伝え方を考えて発信すれば、足を運んでくれる」「若い方に合う商品を作れば、手に取ってくれる」というのが証明できました。百貨店や伝統工芸関係者にも喜んでいただけているので、嬉しい限りです。
――今後の目標は?
正面から見た時に最も輝くように計算されている
螺鈿の技術はしっかり継承しながら、新しい螺鈿の可能性を追求していきたいです。
現在も、海外デザイナーと協同の商品開発にチャレンジしています。
・螺鈿の文化や魅力について伝承し後世に残す。
・『職人は立派に食べられる仕事だ』ということを自ら証明し、職人を目指す人に希望を与える。
・事業を続けることで魅力ある街づくりの一助になる。
職人として、この3つを目標に今後も進んでいきたいと思っています。
[文/コティマム・構成/grape編集部]