天然と現実の間で揺れる年頃 その揺れも人生の一部として楽しんで
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
天然か現実か、それが問題
『天然もの』は珍重されます。魚介類であれば、ありがたく。人もまた、『天然』のキャラクターは愛されるものです。
しかし、年齢と共に緩んでいくネジ……記憶力……発想力……は、天然だと喜んでいられないものがある。年齢に比例した『天然』かもしれませんが、それまで知らなかった自分との出会いに、戸惑うこともしばしばです。
ふとした瞬間に、自分の変化を目の当たりにして唖然。お昼に何食べたっけ……、あれ、あの人なんていう名前だっけ……。
このような『ど忘れ』のときは、必ず思い出すこと。途切れた回路を修復するように。あ……い……う……というように、一文字一文字辿るように思い出していきます。
天然と言われる人は、思い込みも強いかもしれません。大学の先輩の「高校は“しんがっこう”だったんだよね」という話に、「え!神様の学校だったんですか?」とボケた上に胸で手を組んだ私に、その場にいた友人たちは一瞬固まっていたのを思い出します。
数日前、レストランでのこと。一人ひとりにメニューのカードが配られました。前菜からデザートまで書いてあるいちばん下に「珈琲または紅茶」とありました。
どんなコースメニューにも書いてあるように。小さな字だったからと言い訳したいのですが、私はこう思ってしまったんですね。
(くれない茶ってなんだろう。紅花のお茶かなあ)
一通りコースをいただき、ウェイターが飲み物のオーダーをとりにきました。
「コーヒーになさいますか? 紅茶になさいますか?」
(あ、そっか。紅茶か)
そのとき気づいたんですね、やっと。それも、その日に紅茶を飲んでいるにもかかわらず。気づいたときに大笑いしてしまったのですが、一緒にいた夫の顔が少し引きつっていたのを見逃しませんでした。
そうですよね。ちょっと笑えない。脳の中の連携がどうなっているのだろうと自分が心配になります。
ひとつ、言い訳をするなら、最近ある楽曲のプロジェクトで、日本をテーマにした歌詞を手がけたことがあったと思います。
日の丸の赤は、正式には何色だろうと調べると、それは『赤色』ではなく『紅色』『くれない色』というそうです。
この『紅』という文字に『くれない』という言葉、イメージが頭の中にあったからに強く残っていた……と思っているのですが無理があるでしょうか。ありますね。
天然と現実の間で揺れる年頃。その揺れも人生の一部として楽しんで。くれぐれも揺れに酔ってしまわないように。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」