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「どんどん」「すぐに」 即効性を求める時代に考えたい『読ませる本』の価値

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

私たちにとって本とは何なのだろうか

「本を書きたい人はどんどん増えるのに、本を読みたいと思う人が減っている」

編集者と話していた時に聞いたショックな現実です。1ヶ月に出版される本は約6千冊、1日に約200冊新刊が出版されることになります。すべての本が平積みされるわけではありませんが、限られた書店のスペースに平積みにしてもらうには、よほど売れる見込みがないと難しいということになります。出版される書籍の数は増える傾向にありますが、出版業界全体の売り上げは、かなり減少しています。

本が売れない…という現実に加え、文学作品、小説が売れなくなったという現状があります。実用書、ハウツー本の動きはまだいい。しかし、『読ませる作品』は売れない。いわゆる、随筆も数少なくなってきているのです。随筆を読むなら小説を読む、という傾向もあると、編集者は話してくれました。

この話を聞いて、25年前にNHKの報道のプロデューサーが話してくれたことを思い出しました。朝の報道番組『NHKニュース おはよう日本』の中で、当時の『精神世界ブーム』について3日間の特集が組まれ、そのナビゲーターとして出演したときのことです。団塊の世代であるそのプロデューサーは、半ば憤りを込めてこう話してくれました。

「自分とは何かということを探求するのに、クリスタルを触ったり、パワースポットに行くことに求める気持ちがわからない。僕たちが若い頃は、哲学書や小説を何冊も読み、悩み、苦しんだものです」

今、このプロデューサーの気持ちが少しわかるような気がしています。すぐに幸せになりたいし、すぐに成功したい。また、何年か前に違う編集者が話してくれたのは、タイトルに「どんどん」「すぐに」「1分で…」とつくとその本が売れる、ということでした。じわじわ効いてくる漢方薬でなく、速攻で効く痛み止めが求められている。ITの世界が一気に広まったということもあるかもしれません。これからAIの時代になっていったとき、人は本に何を求めるのでしょうか。

小説を読むこと。繰り広げられる物語を通して共感し、想像力を広げ、そして行間にこもっている「何か」を読み取る。人間の不可思議さであったり、生きるということの深淵さであったり、何かが無意識のうちに取り込まれる。この「何か」が、感性を育み、生き方を強くするのではないか。答えを出すまでのプロセスに、悩む意味があるのではないかと思います。

小説、上質の随筆、『読ませる本』が読まれなくなれば、日本語の美しさに触れる機会も少なくなるでしょう。唯物的なものを求め続けた時代に、日本人は『日本語』を失っていく。想像力を摩耗させていく。攻めることも大事。と同時に、守ることも大事です。今こそ、もう一度文学を必要とする時ではないでしょうか。

『自分という物語を生きる~心が輝く大人のシナリオ』 (水王舎)


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
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