「死んでしまいたい…」失明した妻へ贈った、庭一面の花畑
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宮崎県の児湯郡新富町に、『新富町の観光名所』と呼ばれる個人宅があります。
『シバザクラ』という花に囲まれた600坪の家で、毎年3月下旬から4月下旬にお庭を開放しています。なんと、多い日には7000人近くが花を見に訪れるそうです。
庭一面に咲き誇る、ピンク色の美しい花畑。実はこの光景には、とある夫婦の愛が詰まっているのです。
光を失った妻へ贈った『シバザクラの花畑』
黒木敏幸さんと靖子さんは、1956年に結婚して以来、この家で酪農業を営んできました。
毎日休む日もなく朝早く起床し、60頭もの牛を育てても、生活は非常に苦しかったそうです。
「お金を貯めて仕事を辞めたら、2人で日本一周旅行に行こう」
そう約束した黒木さん夫妻は、2人の子どもを育てながら日々支え合っていました。
しかし、靖子さんを悲しい運命が襲う
結婚から30年経ったある日のこと。52歳になった靖子さんが、突然目の不調を訴えたのです。敏行さんがすぐ眼科へ連れていくも、原因は不明。
1週間後、糖尿病の合併症が原因だと判明する頃には、完全に視力を失ってしまいました。
「あの世に行ってしまいたい…」
夢も希望も失った彼女は、ある日そんなことをつぶやきました。夫との旅行を夢見て毎日働いてきた靖子さんにとって、この現実は受け入れられなかったのです。
妻を喜ばせたい一心で植えた、一握りのシバザクラ
視力を失ってから、すっかり家に閉じこもるようになった靖子さん。
「せめて誰か遊びに来てくれたら、話し相手になってくれるかしら…」
落ち込んだ表情でそう言う妻の姿を見て、敏行さんは毎日心を痛めていました。
そんなある日、庭に咲いていたシバザクラの花がふと目に入ったのです。
「目が見えなくても、花なら匂いで感じることができる。
それに、きれいな花畑が家にあったら、たくさんの人が来てくれるかもしれない…!」
そう思った敏行さんは、シバザクラを庭中に植えることにしました。
2年かけて土台を整え、毎日シバザクラの花を育てる敏行さん。愛する妻・靖子さんに笑顔を取り戻したい…その一心で庭に花を植え続けたのです。
徐々に広がっていく『シバザクラのカーペット』
10年という長い年月をかけ、どんどん大きくなったシバザクラの花畑。その美しさは、近隣の住民からさらに広がり、県外からも人が来るようになりました。
そして、そこには花畑の中を散歩し、笑顔で人と会話する靖子さんの姿もありました。
今でも靖子さんや多くの人々のため、土運びや水やりなどの花の育成をひとりで行っている敏行さん。多くの人が花を見て喜んでくれることが、今の生きがいなのだそうです。
黒木さん夫妻の永遠の愛がある限り、これからもシバザクラは美しく咲き誇ることでしょう。