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【『大奥 Season2』感想8話】福士蒼汰の動、古川雄大の静 悲劇を際立たせる二人の演技

By - かな  公開:  更新:

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※写真はイメージ

SNSを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2023年10月スタートのテレビドラマ『大奥 Season2』(NHK)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

これ以上はないような幸福を経験した後に、それを突然奪われるとしたら、最初から幸福を得ない方がまだましか、あるいは奪われて絶望するとしても、それでも一度は得る方がましか。

NHKドラマ10『大奥』の8話を見ながら、そんなことを考えていた。

たとえ奪われても幸福を得たことに後悔はないという人は少なからずいるはずだと思う。

それでも、幸福を失った理由がわからないままだとしたら。

そして、その一因に自身が関わっているかもしれないという疑いが晴れなかったとしたら。

それは化膿した傷口のように、長く治りづらい悲しみに違いない。

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男だけがかかる伝染病により、男子の人口が極端に減った架空の江戸時代。労働も政治も女が担っていた。

鎖国による奇妙な安定の時代を経て、国力の低下を憂えた八代将軍吉宗(冨永愛)の悲願と世代をまたぐ研究者の苦闘によって伝染病は克服される。

人口比は半々に戻り、社会も徐々に男中心になっていく一方で、依然男に交じって家督を継いだり、政治に携わる女達もいた。

おりしも時は幕末。過渡期の社会にアメリカの黒船がやってきて開国を迫る。

時の将軍は徳川家定(愛希れいか)。女性であり、幕府の体制維持のために薩摩藩から御台所・胤篤(福士蒼汰)を迎えていた。

この男女逆転の『大奥』で屈指の愛の場面といえば、一つは序盤、家光と有功が最初に心を通わせて抱擁するシーンだと思う。

そして右衛門佐(山本耕史)が綱吉(仲里依紗)に男女のありようを説く場面。さらにもう一つ、今回の家定が胤篤に「そなたが好きなのだ」と涙とともに告白する場面である。

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この原作でも胸迫るシーンに、脚本は「しかし実のところ、私にはしかとわからぬことであったのだ。何をもってこの男を好き嫌いだと人は言うのか」という家定の言葉を付け加えた。

自身では愛が何なのかを知らない過酷な人生で、それでも部下や周囲を優しく思いやってきた女の高潔な魂がさらに実感できる一言である。

そして愛する家定を突然失った胤篤の悲痛は、ドラマでは映像として見るぶん、一層深く苦しい。描き方も、原作以上にドラマの胤篤は絶望し、泣き、怒っている。

その描き方に、福士蒼汰は炎のような熱量をもって応えた。

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薩摩の隠密である中澤(木村了)との火花が散るやりとりも、井伊直弼(津田健次郎)に激しく詰め寄る場面も、福士が発散する荒んだ怒りに圧倒される。

そして次の将軍となる家茂(志田彩良)と生前の家定が願った世の中を語るうちに心の鎖が緩み、義父上と呼ばれた瞬間に荒んでいた瞳に灯りがともる様は見応えがあった。

同時に、絶望にのたうつ胤篤を静かに見守り、形にならない思いやりで支える瀧山を演じた古川雄大の佇まいも素晴らしく、二人の俳優の動と静が悲しみの場面を一層味わい深いものにしていた。

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愛が通じ合った幸福の後の死別は、五代将軍・綱吉と右衛門佐で、そして父親と娘の関係性は同じく綱吉と桂昌院(竜雷太)、そして家定と家慶(高嶋政伸)で描かれている。

だが、作中で時代を変えて繰り返し描かれるそれらは、少しずつ救いと解決が示されながら繰り返される。

胤篤は愛する人と突然死別する悲しみに沈みながらも、周囲の支えを得てその遺志を実現するべく立ち上がる。義父と義理の娘である胤篤と家茂は、互いを尊重してよりよい幕府のありようを探ろうとしている。

そして、吉宗と久通(貫地谷しほり)、綱吉と柳沢吉保(倉科カナ)、茂姫(蓮佛美沙子)とお志賀(佐津川愛美)といった女二人の固い絆を描いてきた本作に、最後に主従ではない、将軍と御台という形で二人の女が登場する。

国の舵取りに希望を抱く家茂と、男と偽って降嫁してきた和宮。

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考え方も育ち方も全く違う二人の女は、どんな物語を見せてくれるだろうか。

性愛と血筋、そして統治を描いてきた壮大な物語は、最後の山場を迎える。


[文・構成/grape編集部]

かな

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