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【TOKYO MER感想 5話】背を押し、押されるということ・ネタバレあり

By - かな  公開:  更新:

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Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2021年夏スタートのテレビドラマ『TOKYO MER』の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

経験を積めば人脈は増える。増えた人脈はよりレベルの高い仕事を可能にする。

一方でそれはしがらみにもなってあなたを縛る。利害の調整、恩義、尖った意見は誰かを怒らせそうで、もう言えない。

最初に理想はあったのに、いつしか遠くに流されてしまう。そしてほろ苦く思う、生きるってこういうことさ。多少なり誰にでも覚えがあると思う。

でも、戻れないところに流されてしまう前に、確かに幾つかの分岐はあったはずだ。

『TOKYO MER』第5話、大物政治家と妊婦の救出で揺れる音羽

移動する手術室として、さまざまな災害や事件の現場に駆けつけてきた『TOKYO MER』。第5話の現場は、本拠地としている病院内のエレベーター。

ここまで、鈴木亮平演じる凄腕救命医のチーフ・喜多見と対になる存在として描かれてきた、賀来賢人演じる、医系技官(厚労省の官僚であり医師でもある)の音羽尚が、大物政治家と臨月の妊婦、そして病院ボランティアの喜多見の妹とともにトラブルを起こしたエレベーターに閉じ込められる。

さらにエレベーターには火災の煙が充満し、臨月の妊婦の容体が急変する。

官僚として更なる高みで大きな仕事を成し遂げたい音羽は、政治家の意向には逆らえない。煙の中、目の前で苦しむ妊婦か、自分を真っ先に助けろと騒ぐ大物政治家(桂文珍演じるこの政治家が、また下劣かつ自己中心的で同情の余地がない)か、音羽は苦しい選択を迫られる。

こんな多重危機が次から次に発生する確率を考えてしまうより前に、視聴者をジェットコースターのごとき物語のレールに乗せてしまうのが今作の巧さだ。名探偵がいれば事件が起こる、それと同じだと思う。

災害現場でも事件でも常に真っ先に患者の元に走るチーフの喜多見が、エレベーター内という特殊な環境もあって今回は一向に現場に辿りつけない。

イヤホンマイクの声と不鮮明なエレベーター内カメラの映像を頼りに、喜多見と音羽はやりとりを重ねてエレベーター内での緊急帝王切開を決断する。

音羽の出世の道を閉ざしてでも妊婦を救う決断に向けて、決して焦らずに柔らかい口調で対話を積み重ねる喜多見のありようが興味深い。

喜多見はこれまでのMERの現場の経験から、音羽がどちらを選ぶのかは分かっている。しかし、どこまでも本人の明確な意思で選んでほしいと内心願っている。

やはり喜多見は医者であるのと同時に、卓越したチームリーダーであり、オーガナイザーなのである(その『人たらし』ぶりは、喜多見が現場に辿り着いた時に政治家まで巻き込み当事者にして、味方につけるあたりでも発揮される)。

その喜多見が決断のために音羽に最後に投げかけた言葉は「(手術をするかどうかは)あなたの判断に任せます。あなたは、医者ですから」。

喜多見の言葉で、音羽は官僚ではなく1人の『医者』として手術の判断を下す。その決意は、簡潔な一言だった。「命より大事なものなんか、この世にはないんです」。

誰の人生にも、大小の分岐点がある。常に迷わずに選べるならば幸せだが、大抵はどちらの道にもメリットもデメリットも同じくらいあって、私たちは迷う。

迷って誰かに背中を押してもらうなら、せっかくならば妥協ではなく、きれいごとで背中を押してもらいたい。そう思わせてくれるような心の震えるシーンだった。

複雑な人間の心の機微を表現する、賀来賢人の演技

テレビドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)で、金髪の悪魔・三橋をコミカルに演じて世代を超えた人気を得た賀来賢人だが、出世作ともいえる朝ドラ『花子とアン』(NHK)では、妹・花子の成功に屈折した思いを抱く軍人の兄を好演している。

感情を殺しストイックさを前面に押し出しつつ、心の奥にある柔らかさを隠しきれない。そういう複雑な役もよく似合う。

音羽が医師と同時に官僚になった動機は、貧しさで適切な医療にアクセスできなかった自分の母親への思いからであった。

しかし、喜多見の妹の涼香に問われても音羽はその動機を明かさない。音羽は命を救った新生児の小さな手のひらに触れながら、その母親に懺悔するように静かな声で語りかける。

そして、「新しい命を支援する仕組みを利用してほしい、自分は誰もが希望を持って生きられる国にしていくから」と、付け加える。

そこで気づく。今回の話は医療従事者へのエールであるのと同じくらい、時に愚かな上からの指示や、矛盾した社会の状況に息苦しく縛られながらも、少しでもベターに制度を変えたいと日々激務をこなしている官僚たちへの熱いエールでもあったということを。

あらゆる危険な現場とタイムリミットに疾走する今作も第5話にして折り返しである。毎回の濃密さに「まだ」と「もう」という思いが交錯する。

この爽快な医療チームがどんな道をいくのか、後半も見守りたい。

TOKYO MER/TBS系で毎週日曜・夜9時~放送

過去のTOKYO MERドラマコラムはコチラから


[文・構成/grape編集部]

かな

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