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伝説のバーテンダーに教わる接客の極意 銀座『MORI BAR』より毛利隆雄

By - grape編集部  公開:  更新:

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客を諭す!? 毛利流コミュニケーション術とは

中島 今回いちばんお話聞きしたいのが接客についての考え方です。いかにお客様の要望を受け取り、どんなサービスを提供すべきなのか。我々には常に課題となっています。毛利さんは、お店でお客様とどう向き合っているのでしょうか。

毛利  私の場合、バーへ飲みに来るほどお酒が好きな方には、こちらから「こういうものを飲んでみてください」とおすすめするんです。バーテンダーとして一本立ちした当時から「お客様を教育しよう」という気持ちがあったんですね。もちろん、アルコールの強さ加減や甘さ加減など、好みの傾向はちゃんと聞きますけれど。で、お客様のほうもだんだん慣れてくると、今度はカクテル名じゃなくて「白ちょうだい」「黒もらえる?」となる。白はマティーニ、黒はハバナマティーニのことですね。

中島 バーならではのコミュニケーションですね。徐々に信頼関係が築かれてくるというか。お客様を教育するというのは、我々東京メトロとしてはできないところですね(笑)。ただ、片側通行をお願いしたり、トイレをきれいに使っていただいたり、電車に無理に乗ろうとするお客様には極力ご遠慮いただくなど、お客様に「慣れて」いただく部分はありますね。毛利さんの、カクテルを積極的にすすめていく接客スタイルはいつごろから確立されたのでしょうか。

毛利 1987年にローマでの世界大会にはじめて日本代表として出場して、自信をつけて帰国してからですね。私には、スタンダードなカクテルはもちろん、誰にも負けないマティーニとハバナマティーニという武器がありましたから。

ただ、最初この世界に入ったころ、先輩から「とにかく自分からはしゃべるな」と言われましてね。それからは、聞かれたことに対してだけ答えようとする姿勢になりました。ただし、お客様の話を常に一生懸命聞いてあげなきゃいけない。うわの空で聞いちゃいけないというのはありますから、距離感には気を遣いますね。

大切なのは「ベストな接客法を考え抜く努力」

中島 毛利さんのお話をうかがっていると、業種による接客やサービスに対する考え方の違いが浮き彫りにされて、非常に興味深いです。

毛利 ひとつ言えるのは、マニュアルに対する考え方の違いでしょうか。以前、ホテルに務めるバーテンダーのコンテストの審査員を任されていたんですが、私は必ずといっていいほど出場者を酷評していました。褒めないどころか、コキおろすわけです。なぜかというと、ホテルのバーテンダーはサラリーマンだから、カクテルは全部決められたレシピでしかつくらない。サービスも一緒。完全に均一化していて。

中島 そのホテルの味を誰でもつくれるように教育されているはずでしょうから、当然といえば当然なのかもしれませんね。東京メトロは、基本的には毛利さんのスタイルとはむしろ逆で、まずは駅員みんなにマニュアルに沿って接客を覚えてもらいます。そのことが結果的に、安全やサービスの向上につながっています。

毛利 地下鉄を日々利用している我々のような立場としては、その方が安心できますからね。もちろん私たちも、自分なりの工夫をする前にバーテンダーとしての基本はしっかり押さえておく必要はあります。でも、バーテンダーという商売はもっとお客さんをわくわくさせたり、お客様の要望の一歩先をいくようなことをしないといけない。海外の同業者を見てきた私からしたら、やっぱりホテルの接客、つくり方では物足りないわけです。だからそういう子たちには口うるさく言いましたよ、「街のバーに行って勉強しなさい」とね。お客様を魅きつけて、飽きさせないためにはどうすればよいか、街のバーテンダーたちの仕事ぶりは非常に参考になりますから。

中島 自分の接客が本当に適切なのか、同業者を見ながら客観化する機会は大事ですね。その点で言うと、東京メトロでは「接客選手権」というかたちで、研修やコンペを行うことで自分たちの接客を常に見直すよう務めています。

毛利 接客には、決して「正解」はありません。ホテルの均一化されたサービスを好むお客様もいますから、それはそれでいいわけです。そこが難しいところ。

中島 毛利さんのお話をうかがっていて、接客に対する考え方は違っていても「状況によってどんな対応の仕方がベストなのかを常に考え抜く」という点は共通していると思いました。東京メトロとしても、いわゆる既成のマニュアルだけでは、イレギュラーな事態に対応できなくなってしまう恐れがあります。そんなとき、お客様にとってもっとも安全だと思われる対応を自分で的確に判断し、実行できる人間をこれから育てていかねばなりません。

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