空港は、出会いと別れの場 幸せとせつなさを味わう By - 吉元 由美 公開:2020-08-30 更新:2020-08-30 エッセイ吉元由美 Share Post LINE はてな コメント 吉元由美の『ひと・もの・こと』 作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。 たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。 母は幸せで、せつなくて〜空港にて思うこと 8月半ば、娘が留学先のニューヨークに戻りました。コロナ禍の中、ほとんどのフライトは欠航で、羽田空港の国際線ターミナルは閑散としていました。 午前9時から11時の間にある27便のうち、飛んでいたのは、パリ、ヘルシンキ、バンコク、ダラス、ニューヨーク行きの5便。人々のざわめきはなく、レストラン、お店は全部閉まっています。世界が分断されていることを、肌身で感じました。 空港は、出会いと別れの場です。そこには、一人ひとりのドラマがあります。旅立つ人、見送る人。出発ロビーにも到着ロビーにも、それぞれの人の思いがあります。 年に2回、見送り、出迎えをするようになって8年が経ちました。保安検査場に入っていく娘の背中を何度見送っても、慣れることはありません。体の一部を持っていかれるような痛みに、毎回、少し泣いてしまいます。 8月の終わり、お正月明けの出発ロビーには、留学生らしい学生たちとその家族を多く見かけます。子どもが保安検査場に入り、その姿が見えなくなってもその場を離れずに立っている母親たち。 私もそんな親の一人なのですが、(さあ、帰りましょう)と切り替えることができません。子どもがまた手の届かないところに行ってしまったことを噛み締める…そして、次の日常にリセットするための時間なのかもしれないなあと思うのです。 お盆とお正月に故郷に帰る。子どもが帰ってくるときには、お母さんはきっとご馳走をたくさん作って待っていることでしょう。 それを作っているときの母親の気持ち。久しぶりの再会を楽しみに、静かにわくわくし、子どもの好きなものをたくさんこしらえるでしょう。 その同じ気持ちを私も味わっています。楽しみで仕方がないのですが、同時に母親とはせつないものだとも思うのです。 私はいつも、展望ロビーから機影が見えなくなるまで見送ります。これも、私のリセット法のひとつなのかもしれません。飛行機に乗っているすべての人が無事にそれぞれの目的の場所に着くように、激しく祈ります。 猛暑、じりじりと肌を刺すような炎天下の展望ロビーには、ニューヨーク便を見送る人がたくさんいました。ずっと動画を撮っている女性、孫を見送るおじいさんとおばあさんもいました。しがみつくように金網につかまり、じっと見送っている女性もいました。 みんな、愛する人を見送っている。それぞれのドラマを生きているのです。夏空に小さくなっていく機影を追いながら、母親である幸せとせつなさを深く味わったのでした。 ※記事中の写真はすべてイメージ 作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー [文・構成/吉元由美] 吉元由美 作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。 ⇒ 吉元由美オフィシャルサイト ⇒ 吉元由美Facebookページ ⇒ 単行本「大人の結婚」 快挙を成し遂げた狩野英孝、帰国便の搭乗券をよく見ると… 「さすがJAL」の声ホノルルマラソンから帰国する狩野英孝さんに、JALが用意したサプライズとは…。 ロケで出会う人を「お母さん」と呼ぶのは気になる ウイカが決めている呼び方とは?タレントがロケで街中の人を呼ぶ時の「お母さん」「お父さん」に違和感…。ファーストサマーウイカさんが実践している呼び方とは。 Share Post LINE はてな コメント
吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
母は幸せで、せつなくて〜空港にて思うこと
8月半ば、娘が留学先のニューヨークに戻りました。コロナ禍の中、ほとんどのフライトは欠航で、羽田空港の国際線ターミナルは閑散としていました。
午前9時から11時の間にある27便のうち、飛んでいたのは、パリ、ヘルシンキ、バンコク、ダラス、ニューヨーク行きの5便。人々のざわめきはなく、レストラン、お店は全部閉まっています。世界が分断されていることを、肌身で感じました。
空港は、出会いと別れの場です。そこには、一人ひとりのドラマがあります。旅立つ人、見送る人。出発ロビーにも到着ロビーにも、それぞれの人の思いがあります。
年に2回、見送り、出迎えをするようになって8年が経ちました。保安検査場に入っていく娘の背中を何度見送っても、慣れることはありません。体の一部を持っていかれるような痛みに、毎回、少し泣いてしまいます。
8月の終わり、お正月明けの出発ロビーには、留学生らしい学生たちとその家族を多く見かけます。子どもが保安検査場に入り、その姿が見えなくなってもその場を離れずに立っている母親たち。
私もそんな親の一人なのですが、(さあ、帰りましょう)と切り替えることができません。子どもがまた手の届かないところに行ってしまったことを噛み締める…そして、次の日常にリセットするための時間なのかもしれないなあと思うのです。
お盆とお正月に故郷に帰る。子どもが帰ってくるときには、お母さんはきっとご馳走をたくさん作って待っていることでしょう。
それを作っているときの母親の気持ち。久しぶりの再会を楽しみに、静かにわくわくし、子どもの好きなものをたくさんこしらえるでしょう。
その同じ気持ちを私も味わっています。楽しみで仕方がないのですが、同時に母親とはせつないものだとも思うのです。
私はいつも、展望ロビーから機影が見えなくなるまで見送ります。これも、私のリセット法のひとつなのかもしれません。飛行機に乗っているすべての人が無事にそれぞれの目的の場所に着くように、激しく祈ります。
猛暑、じりじりと肌を刺すような炎天下の展望ロビーには、ニューヨーク便を見送る人がたくさんいました。ずっと動画を撮っている女性、孫を見送るおじいさんとおばあさんもいました。しがみつくように金網につかまり、じっと見送っている女性もいました。
みんな、愛する人を見送っている。それぞれのドラマを生きているのです。夏空に小さくなっていく機影を追いながら、母親である幸せとせつなさを深く味わったのでした。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」