押阪忍が語る 『奥の細道』収録の思い出〜その弐 By - 押阪 忍 公開:2019-11-05 更新:2019-11-05 エッセイ押阪忍 Share Post LINE はてな コメント 立石寺 こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。 ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。 『奥の細道』収録の思い出〜その壱はこちら 『奥の細道』その弐 松尾芭蕉の『奥の細道』朗読作品の収録で、改めて調べたり読んだりして深く心に刻まれた拙(つたな)い感想文です。 「月日(つきひ)は百代(はくたい)の過客(かかく)にして、行かふ年も又旅人也(たびびとなり)」 この書き出しで始まる芭蕉の『奥の細道』は、東北 北陸道 およそ1,900キロを140日余りをかけて旅をした『漂白の詩人』の優れた紀行文であり、崇高な文学作品でもあります。 江戸を出発した芭蕉は、先ず日光で「あらたふと青葉若葉の日の光、平泉では、夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡」、山形では、「五月雨を集めて早し最上川」など数々の名句を残します。そして同じ山形の立石寺(りっしゃくじ)で、あの有名な句を残すのですが、あの句が完成するまで、芭蕉は、深閑(しんかん)とした山寺の風景と相対峙しながら、かなり もがき苦しみ難渋した…と監修者から聴きました。 山寺や 石にしみつく 蝉の音、さびしさや 岩にしみつく蝉のこえ…など数句を作るのですが、紀行文には載せていないのです。名句誕生前には、格闘といってよいほどの 苦しみがあったのかも知れませんね。 では、その山寺とは どんな光景だったのでしょうか。芭蕉が綴ったその山寺の情景と、熟考に熟考を重ね、やっと納得して心に決めた あの名句です。 山形領に立石寺といふ山寺あり。(中略) 山上の堂に登る。岩に巌(いわお)を重ねて山とし、松柏(しょうはく)年(とし)ふり、土石(どせき)老いて苔(こけ)なめらかに、岩上(がんしょう)の院々扉(とびら)を閉ぢて、物の音聞こえず。岸を巡り岩を這(は)ひて、仏閣を拝し、佳景寂寞(じゃくまく)として心すみ行くのみ覚ゆ。 閑(しずか)さや 岩にしみ入る 蝉の声 <2019年11月> フリーアナウンサー 押阪 忍 1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。 日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。 森口博子、タクシーに乗って行き先を告げたら運転手が…?タクシー運転手の対応に反響が上がりました。タクシーに乗車して、目的地を告げると…? GACKT「キミは誰かから嫌われてない」 続く言葉に「腑に落ちた」「心が軽くなった」の声GACKTさんが、心のバランスを崩しそうな人へ送った言葉は?ネット上で反響が上がっています。 出典 芭蕉自筆奥の細道 Share Post LINE はてな コメント
こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。
ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。
『奥の細道』収録の思い出〜その壱はこちら
『奥の細道』その弐
松尾芭蕉の『奥の細道』朗読作品の収録で、改めて調べたり読んだりして深く心に刻まれた拙い感想文です。
「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」
この書き出しで始まる芭蕉の『奥の細道』は、東北 北陸道 およそ1,900キロを140日余りをかけて旅をした『漂白の詩人』の優れた紀行文であり、崇高な文学作品でもあります。
江戸を出発した芭蕉は、先ず日光で「あらたふと青葉若葉の日の光、平泉では、夏草や兵どもが夢の跡」、山形では、「五月雨を集めて早し最上川」など数々の名句を残します。そして同じ山形の立石寺で、あの有名な句を残すのですが、あの句が完成するまで、芭蕉は、深閑とした山寺の風景と相対峙しながら、かなり もがき苦しみ難渋した…と監修者から聴きました。
山寺や 石にしみつく 蝉の音、さびしさや 岩にしみつく蝉のこえ…など数句を作るのですが、紀行文には載せていないのです。名句誕生前には、格闘といってよいほどの 苦しみがあったのかも知れませんね。
では、その山寺とは どんな光景だったのでしょうか。芭蕉が綴ったその山寺の情景と、熟考に熟考を重ね、やっと納得して心に決めた あの名句です。
山形領に立石寺といふ山寺あり。(中略) 山上の堂に登る。岩に巌を重ねて山とし、松柏年ふり、土石老いて苔なめらかに、岩上の院々扉を閉ぢて、物の音聞こえず。岸を巡り岩を這ひて、仏閣を拝し、佳景寂寞として心すみ行くのみ覚ゆ。
閑さや 岩にしみ入る 蝉の声
<2019年11月>
フリーアナウンサー 押阪 忍
1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。
日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。