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優しく穏やかな父を見ながら、一生懸命に自分を支えながら生きることを学ぶ

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

高齢の父を支える言葉

「役に立っていたい」

90歳でひとり暮らしをしている父の言葉です。朝、5時には目が覚めてしまう父は、6時には私の家に来てカーテンを開け、新聞を取り込み、ゴミの日にはゴミを出してくれます。

植木に水をやり、玄関先を掃除して。1日5000歩歩くことを決めているので、散歩がてら私の家、妹の家をまわるのです。

6時には起きられないので、滅多に朝いちばんで父に会うことはないのですが、父のルーティンは生存確認。カーテンが空いていないと胸騒ぎがして、すぐに電話をするのです。

これも、父の「役に立っていたい」という思いの現れ。冬の寒さが厳しい時期に、無理して朝早く来なくても大丈夫と伝えても、まだ暗いうちにやって来ます。

「暖かくして出るから大丈夫」と言って、こちらの心配を受け取ってくれません。

「決めたことをやらないと、一気に弱っていく気がする」

役に立っていたい。決めたことをする。これが、高齢の父を支えるルールなのです。

マンションの小さな庭に畑を作り、夏にはプチトマト、なす、ピーマン、ゴーヤ、オクラなど、秋から冬にかけては水菜、小松菜、ほうれん草など。

自分が食べる分だけではなく、私の家、妹二人の家にたくさん分けてもらいます。小さな畑作りも父の楽しみ、生きがい、そして私たちに食べてもらいたいという思いがエネルギーになっているのだと思います。

生きているということ。ここにいるということ。これが私、ということ。

若い頃に『存在証明としての何か』を求めていたように、年齢を重ねるほどまた『生きている証』を求める。

若い頃は外に向けての思いだったのが、高齢になると自分に向けての思いになる。

私も、作詞をしたり文章を書いたり外に向けて発信していますが、と同時に自分自身に向けての言葉を綴りたい衝動を覚えることがあります。

いつか、肉体的に人の支えなしでは生きられない時が来る。その時であっても、生き方を見せていくことはできるのではないか。

どんなふうに老いていくのかわかりません。昔の自己愛の強い、時に無茶苦茶なことをした父の姿が幻のような、優しく穏やかな父を見ながら、一生懸命に自分を支えながら生きることを学ぶのです。

あ、父のことをこうして書いていたら、父が来ました。植木の手入れをしてくれるそうです。こんな小さな時間が宝物になり、私のことも支えてくれるのです。

※記事中の写真はすべてイメージ


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
単行本「大人の結婚」

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