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20歳の誕生日に浮かれる男性 母に「産んでくれてありがとう」とメールをすると…?

By - grape編集部  公開:  更新:

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※写真はイメージ

2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。

今回は、応募作品の中から『母からのメール』をご紹介します。

みなさまは、自分の20歳の誕生日のことを覚えていますか。

当時、私は大学2年生でした。実家を離れ、大学の近くで一人暮らしをしており、それはもう自由気ままな日々を送っていました。

誕生日当日、私は朝目を覚ますと共に、得体の知れない期待をまとい、強く高揚しておりました。20歳という人生の節目を迎え、「大人になった」ということが、嬉しくてたまらなかったのです。

授業の合間や、昼食中など、友人に20歳になったことを自ら伝えてまわりました。実際の生活で、変わったことなどひとつもありません。

急に社会の知識がついたり、精神的に落ち着いたりすることももちろんなく、ただ今までと同じように時が流れているだけです。大人になった実感もありません。

ですが、20歳を迎えたということはとても特別なことのように思えたのです。

授業を終え、部活までの間1人になった私は、狭い部室で椅子に腰掛け、今までの自分の人生を振り返っていました。

携帯電話の着信音に気付き、画面を確認すると、すぐに母親からのメールだと気がつきました。高揚感や大人になった達成感が自分の心のほとんどを占めており、親の存在を忘れていました。「そういえば親がいたな」くらいにしか思っていなかったのです。

過保護な親から、またお節介なメールが来たのかな、と思いメールを開きました。

短く、シンプルな文章でした。

「お誕生日おめでとう」

母親から誕生日を祝うメールが来たことにまず驚きました。今まで母親に誕生日を祝われたことがなかったのです。

私は気持ちがたかぶっていたこともあり、普段なら絶対言わないような言葉で返信しました。

「産んでくれて、ありがとう」

送った後、なんだか恥ずかしくなってきましたが、もう送ったメールは取り消せません。

今まで、母親にしてもらったことを、思い返してみました。物心ついた頃から、母親は毎日ご飯を作り、私が高校生の時はお弁当も作り、買い物をし、洗濯をし、家の掃除をしてくれていました。

母親からすぐ返信がありました。

「産まれてきてくれてありがとう。母親らしいことなにもしてあげられなくてごめん」

その文章を見た途端、まぶたが奥から熱くなり、視界がぼやけ出しました。

さらに細かく、母親との記憶が蘇ってきます。私が悪さをし、母親が学校に呼び出されても、私の話を最後まで聞いてくれたこと。わたしがテストで恥ずかしい点をとっても、部活で失敗しても、「元気で生きてくれていればそれでいいんだよ」と言ってくれたこと。

いくつもの記憶が、断片的に頭の中に次から次へと湧いてきます。そして、驚くべきことに、それらはすべて愛で溢れており、私の心を温かく包んでいくのです。

うつむくと、大粒の涙がぼたぼたと地面を濡らします。

私が産まれて20年経ったと言うことは、母親は私を産んで20年経ったということです。

今日は私の誕生日ですが、同時に母親の母親としての誕生日でもあるのです。

母親は私の世話をする対価として、誰かに大金を積まれたのでしょうか。それともなにか大きな見返りがあるのでしょうか。いいえ、そんなものはなにひとつありません。

私は、自分が自分1人で大きくなったと思っていたことが急に恥ずかしくなりました。

部員が一人、部室に入ってきました。私が涙を流していることにとても驚いていました。

事情を話すと、「良いお母さんじゃないか」と私の胸をグーでとんと押しました。

「ああ、良いお母さんなんだ」

そう言って私は、メールの保存ボタンを、ゆっくり押しました。

しかし、そのメールは保存なんて意味がないくらい、私の記憶に強く残り、時に温かい気持ちにしてくれるのでした。

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『母からのメール』
作者名:沢村 進也

エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!

2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。

さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。

心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!


[構成/grape編集部]

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