「ありがとう」に一言を添える それだけで、心のぬくもりを伝えることができる
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
言葉に命を吹き込むことを
冬の夕方、くっと冷え込み街に明かりが灯ると、なんとも言えない心細さが胸に広がります。
その感じは、冬に一人旅をして異国を歩き回っていたときの感覚によく似ていて、家には家族がいることがわかっていても「ひとりぼっち」であることが胸に迫るのです。
冬の黄昏時は、自分が帰る場所を恋しく思う時でもあるのです。
と同時に、この寒空の下で本当にひとりぼっちでいる人たちのことをふと思います。クリスマス、お正月を家族や友人が集まる時期、ひとりでも多くの人が温かい明かりの下に集まることができたらいいのに、と。
何もできずにこんなことを思う自分を、偽善的だと感じることもあります。
毎年、我が家の近くの教会に無洗米を献品します。今年もクリスマス前に持って行ったところ、教会の玄関には鍵がかかっていて中に入れませんでした。
仕方なく、玄関横の傘立てに二袋を置き帰ろうとしたときです。通りの向こうからマーケットの袋を下げた女性が歩いてきて、「何か御用ですか?」と声をかけられました。
その方は教会の牧師先生で、献品を届けに来たことを伝えると、とても喜んでくださいました。
毎年、年末に3カ所で炊き出しとお弁当を配るために、お米はとてもありがたいと。年に一度だけの罪滅ぼしのようで心が苦しくもあることを伝えると、牧師先生はこう言われました。
「お心を寄せてくださり、ありがとうございます」
美しい言葉だなあと思いました。心から発せられる言葉のぬくもりに、許されているような感じがしました。そうか、言葉を伝えるとはこういうこと。
伝えるのは言葉の持つ意味だけでなく、言葉の手触り、発する人の心の温度なのですね。
「『ありがとう』は魔法の言葉」
という文言が流行ったことがありました。ただ「ありがとう」と言うだけでなく、そこに心をこめる。
すると、「ありがとう」に命が吹き込まれる……そのエネルギーは目には見えませんが、受け取った人の心につながっていくのではないでしょうか。
「心を寄せてくださり、ありがとうございます」「お支えをありがとうございます」……「ありがとう」に一言を添える。それだけで、心のぬくもりを伝えることができるのです。
教会の帰り道、必要としている人に何ができるのか考えました。できることはきっとたくさんある。でも、何かすることを必要としているのは、もしかしたら私自身なのかもしれない。
心をただただ慈しむということに明け渡す。そのときに、私の言葉に命が吹き込まれるのかもしれません。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」