「信じる」ということ 言葉と心のつながりを大切にすると、心に映る風景が変わっていく
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
「信じる」という言葉に思う
歌詞を書くとき、どうしても多く使う言葉があります。書くときには、もちろんその言葉がふさわしいと思うから使います。
「愛してる」「信じてる」、そう書くときは心からその言葉を思います。
音楽大学の授業で作詞について教えていく中で、その言葉の重みに気づき考え込んでしまうことがありました。
「信じてる」「信じる」とは、実はとんでもないことなのではないか。人は、そう簡単に何かを「信じる」ことは出来ないのではないか。
「明日を信じる」
「未来を信じて」
「自分を信じる」
「あなたを信じてる」
1時間後に死んでいるかもしれないのに、なぜ明日を信じられるのか。自分を信じる? 思わぬ出来事に感情が翻弄されてしまい、不安定になる自分を信じられるのか。
「信じる」というのは、実はとても凄まじいことなのではないか。耳障りのいいこの言葉をはまりのいいところに多用するのは、ちゃんと言葉を語っていないのではないか。
「愛してる」も同じことです。本当に愛してる? 愛してるってどういうこと? 情愛と愛は違うのではないか。
こう考え始めると迷路に入ってしまったようで、自分の中で問答が繰り広げられるのです。
例えば歌詞の中で「いつか」「いつの日か」という言葉が出てきます。日常的にも使う言葉ですが、「いつか」ということは「いまはない」ということです。
「いつか」という言葉には希望と、「いまはない」淋しさのようなものも含まれているのです。
たった3文字の「いつか」にこもっている物語を短い歌詞の中でどう語るかが作詞家の仕事なのだと、改めて思うのです。
日常の中で交わされる「いつか」という言葉が希望であり、この手にできる確かなものであるように意識して口にしたいと思うのです。
このような言葉の重みは、一方で実践することで実現していくことがあります。自分を信じることができたら生きやすくなる。
夢は叶うと心から信じられるからこそ、それは現実になっていく。
最初から「信じてる」のではなく「信じよう」「信じる!」と強く思うからこそ、道が開けるのでしょう。
「誰か」を信じる。それは「信じたい」という思いから始まっています。「信じる」ではなく「信頼する」という言葉を使うと、根を下ろすような安定感があります。
「信じる」ということは、「信じてみる」「信頼する」ことから始まる。とても細かいことですが、言葉と心のつながりを大切にすると、心に映る風景が変わっていくのです。
※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」