ひとり旅をする私に「寂しくないの?」と質問する人へ「私には道連れがいます。それは…」
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
孤独で感性の豊かさを磨く
『孤独』という言葉が私たちに投げかけてくる不安。それは静かな影となって胸の奥に忍び寄ります。世界から置き去りにされたような、海の底で膝を抱えているような…。そんな孤独を、人生の中で何度となく味わうものです。
別れは死ぬことに似ていると、若い頃は思いました。もう二度と会うことはない。そして、2人の思いが再びひとつになることはない。それは死と同じだと思ったものでした。
でも、それは愛する人に死なれたことのない私のファンタジーのようだと、少し大人になった今は思うのです。
下重暁子さんの新刊『極上の孤独』が話題になっています。人生100年時代、孤独を楽しめるマインドを持つことこそ、人生を豊かに過ごせることなのだと下重さんはいいます。ひとりでいることを楽しむ。いつも群れの中にいるのではなく、一匹狼になる。しかし、上の年代の多くの人は、孤独は絶対に嫌だとインタビューに答えていました。淋しいのは絶対に嫌だと。淋しい=負け、と捉えている人もいるのでしょう。
20代の頃から、ひとりで海外を旅していました。ひとり旅に行くというと、必ず「淋しくないの?」と聞かれました。思い返してみると、旅に快楽という意味の楽しさを求めたのではなく、孤独を味わいにひとり旅をしていました。自分のことを誰ひとり知らない異国の街で、私はただただ自分を向き合うように歩きました。
ひとり旅は、ひとりの旅ではありません。いつも『自分』という道連れがいたのです。その旅は退屈しません。思考があちこちに飛ぶのも自由、思わぬことを思いつき、思わぬことをノートに書いてしまうのも自由。私にとってひとり旅は、創造の扉を探す時間なのです。
では、孤独とはどういうものなのでしょうか。例えば、頭が痛かったとします。その同じ痛みを他人は感じることができません。頭が痛いことは分かってもらえても、どのくらい、どんなふうに痛いかということは伝わらない。私はここに孤独のひとつの定義があるように思います。例えば死を前にした人と同じ気持ちを、元気な人は分かるのか。人間の中には、決して他人には分かりあえない領域があるのです。
自分の孤独を分かったもの同士が結婚するのは、とてもいいと思います。痛みを知っているとは、孤独の静かな影の中に身を寄せることを知っているということ。だから優しくなれるのです。
渋谷の駅前のスクランブル交差点。信号が変わると同時に黒い塊が移動するように、多くの人が行き交います。この場所は、日本でいちばん孤独を感じる場所です。誰ともつながらない。誰もつながることを求めていない。相手の存在がないかのように、人々はすれ違っていくのです。そこにあるのは孤独ではなく、『孤立』なのかもしれません。
『極上の孤独』をAmazonで見る。
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」