【エルピス 第10話 感想】国家権力や報道責任を描いただけでなかった『エルピス』の本質
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快挙を成し遂げた狩野英孝、帰国便の搭乗券をよく見ると… 「さすがJAL」の声ホノルルマラソンから帰国する狩野英孝さんに、JALが用意したサプライズとは…。
ロケで出会う人を「お母さん」と呼ぶのは気になる ウイカが決めている呼び方とは?タレントがロケで街中の人を呼ぶ時の「お母さん」「お父さん」に違和感…。ファーストサマーウイカさんが実践している呼び方とは。
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Twitterで人気ドラマの感想をつづり注目を集める、まっち棒(@ma_dr__817125)さんのドラマコラム。
2022年10月スタートのテレビドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(フジテレビ系)の見どころや考察を連載していきます。
誰も触れられない『パンドラの箱』を開けた彼らに待ち受けたのは、『災い』か『希望』か。
手に汗握る、最終回スタート
大門副総理(山路和弘)の元秘書・大門享(迫田孝也)の死は病死として公表された。だが真相は他殺だった。
そして村井(岡部たかし)はそのことを知り、『ニュース8』のスタジオに殴り込み、怒りを爆発させる。
その村井の姿を見た浅川(長澤まさみ)は、自分の古巣である報道を木っ端微塵にしたくなる程の真実があると感じ、その事情を聞きに岸本の元を訪ねに行く。
一方、岸本(眞栄田郷敦)は憔悴しきっていた。
浅川が訪れた時も、一度居留守をしようとしたが通用せず、岸本は渋々部屋に通す。
信じていた浅川から「番組を背負う立場で無茶はできない」と跳ね返されてからというもの、二人は言葉を交わすこともなく、岸本は深い失意の中にいた。
だが浅川もたとえ信用を取り戻せなくても、消えそうな真実を見過ごすことはできなかった。
言葉に詰まりながらもう一度お願いすると、岸本は享へのインタビュー音声を浅川に差し出した。
だが、彼はもう手を引くつもりだった。
始まりは、ただ勝ち組でいるためだった。だが、浅川をはじめ、周りに助けられていく中で、本当の自分と向き合い、我武者羅に突き進んできた。
諦めかけてもその度に自分の情熱に従い、全てを賭けて挑んできたのだ。
それがいつしか自分よがりの『報道ごっこ』となっていたのだ。希望が見えなくなる先へ足を踏み入れることが、何より怖かった。
そんな様子に対して、浅川は自分で報道すると言い出す。岸本は「殺されますよ」と忠告をするが、浅川は声を荒げて言い放つ。
「何で殺されなきゃいけないのよ!」
この浅川の叫びは、亨の言葉でもあった。
確かに全部覚悟の上だ。しがらみを捨てた自分に訪れる悲劇を、何処かで感じてもいただろう。
だが、人の命の価値もわからぬ人間のくだらぬ欲望のために殺される以上に理不尽なことはない。
真実を伝えることは何も無茶なことでないはずだ。浅川はアナウンサーとして、一人の人間として、真っ当に生きたいだけなのだ。
誰かを信じていたいという願いや『希望』を奪われ続けたこれまでを思い、浅川は息を切らしながら本音をぶつける。
でもこんな災いだらけの闇の中に、希望はあるのだろうか…。そう弱気になりそうな瞬間に享へのインタビューの続きがレコーダーから流れる。
ふと、真っ暗闇の中に一筋、細い光がさしたような気持ちです…。
そして浅川は、その中に探し続けてきた答えを見つける。
享が見た光と二人が、リンクしたかのように、西日の暖かい光が、冷え切っていたはずの岸本の部屋に滑り込んでくる。
「希望って、誰かを信じられるってことなんだね」
岸本の目にも涙が込み上げてくる。お互いが知らぬうちに希望を与える存在になっていたのだ。目の前にいる信じられる誰かが『希望』そのものなのだ。
浅川は誓った。
「希望がないなんて、もう二度と言わない」
ついに動き出した浅川
早速浅川は、滝川(三浦貴大)に今夜の『ニュース8』で大門の揉み消しに関する報道を扱いたいと相談を持ちかける。
渋る滝川に対して清々しい顔で、浅川は「私やったことあるもん」と答える。正気ではないと周りから指差されようとかつての『浅川恵那』はもうゴミ箱へ捨ててきたのだ。
揺るがぬ覚悟を決めスッキリした表情で去っていく浅川に、ひと言、滝川がクギを刺す。
だが一度考えてみたい。狂っているのは、本当はどっちの方なんだろうか。
そして、浅川の強行を知った滝川は、放送前のスタジオに斎藤(鈴木亮平)を呼び出す。そして浅川に、斎藤は大門のニュースを外してほしいと願い出る。
案ずるはこの国の行く末。緊迫した世界情勢の中での国政と司法の混乱。国際的信用の失墜の中で起こり得る悲劇。このカードを今切るべきではない…斎藤はそう強く説得する。
確かに先を見据えれば真っ当な意見に聞こえるし、浅川が取れる責任で賄えきれるほどその波紋は小さいものではないだろう。
だがこんな時だけ都合良く国家や世界という大きな存在を提示して良いのだろうか。
紛れもない真実を権力で押し潰すような腐り切った存在に、未来を預ける方が余程怖いことなのではないのか。
国際的信用を失う行動をしている人間は、私達ではなく、力を持った貴方達のはずなのに。
おかしいものをおかしいと声を上げる者の小さな声を無視したって、何事もなかったかのように世界は回り続ける。
国家を形成する一細胞である自分が何かを成しても人生も世界もマシになんてならない。
だがもう目の前にいる誰かを裏切り続けるなんてできない。浅川には迷いはなかった。壇上を降りて、勝負に出る。
「では、本城彰を逮捕させてください」
浅川の表情には一点の曇りもなかった。
そして斎藤が差し出した手を浅川は強く握り返し、ついに本城彰の特集の放送が決まった。
もう1人ではない、『希望』という存在を得た浅川
しかし半ば勢いだったし、「明日まで待つと、事故か病気で出れなくなるよ」という脅しまでオマケされ、浅川は少々不安気味だった。
だが浅川には『希望』がいた。岸本拓朗がいた。その『希望』が偶然にも、テレビ局に特集データを持って出向いていた。
「君、最高!」という言葉に、信じていて良かったという気持ちが詰まっていた。
浅川は岸本に何故か愛情のビンタをお見舞いし、そのままスタジオへ駆けていく。
そして運命の『ニュース8』の放送が始まった。
彼らが必死に掴んできた真実が、知りたい誰かに伝わっていく。駆け抜けた彼らの集大成だ。
そして冤罪を暴くために協力してくれた人々が、岸本の連絡を受け、その放送を見守っていた。
誰よりも松本を信じ続け、冤罪事件を暴くそのきっかけを作ったチェリー(三浦透子)をはじめ、『フライデーボンボン』で特集に協力した若者達。被害者のために奮闘した遺族や西澤の嘘の目撃証言を覆した由美子。
松本の冤罪証明に何年も前から奮闘してきた木村弁護士(六角精児)や情報を提供してくれた笹岡(池津祥子)。
皆、誰かを信じ、必死に生きた者達だ。彼らの小さな声が集まり、大きな声となって届いた。
『生きること』の本質とは
放送後すぐ、岸本と浅川は小さな定食屋に入る。そこは村井行きつけの美味しい牛丼が食べられるお店だった。
浅川が「お腹すいた」とこぼし、大盛りの牛丼を大きな口を開け微笑みながらそれを頬張る。そして遅れて登場した知った顔に「遅い」と不満を投げながらも、笑顔で迎える。
そして無事に冤罪が証明された松本が、チェリーが作ったカレーとショートケーキを美味しそうに食べる。
そんなごく当たり前の日常が、何故か強く響いてくる。
何も喉を通らなかった浅川が。孤独感に苛まれてきた岸本が。
信じたものに何度も裏切られてきた村井が。多くの時間を奪われ続けた松本が。
そんな彼らが笑い合あってご飯を食べているのだ。信じ合える人と美味しいご飯を食べているだけで、世界で一番最強になった気分にだってなれてしまう。
そしてエンディングで黒く爛れたケーキを作り続けた浅川と真っ白なケーキを食べ続けたチェリーの『信じる誰かへの希望があるか』での対比。
それらが『生きること』はつまり『信じる人と共に食べること』という本質に気づかせてくれた。
『正しさ』はそこに存在しながらも、時に強大な力に飲み込まれ、歪められ、真実との間に壁をつくり、凶器へと姿を変える。
闇に葬られた真実は人の見えない場所で渦を巻き、また別の真実の手を掴み引き摺り込もうとする。
そんな腐りきった構図は一瞬でひっくり返えせるものではない。
だが、浅川恵那や岸本拓朗のように、何の問題意識も感じてこなかった人間だって、自分自身を見つめ直し、壁にぶち当たる度に変わり続け、戦い抜けば、災いの中の『希望』を掴むことだって決して不可能なことではないのである。
そうだ。『エルピス』が描いてきたのは、横暴な国家権力やメディアの報道責任に対する挑戦だけではないはずだ。
絶望の中をこれからも生きていく私達に、誰かを救うことのできる『希望』をそっと託してくれたに違いないのだ。
[文・構成/grape編集部]