朝食の定番『食パン』、5分の2が? 『あの部分』をビールに使う理由とは
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従業員の労働価値のすべてを評価してほしい
物事と向き合う際、モノづくりをする人間の視点と、経営者としての視点の2軸で考えるという吉岡さん。
モノづくりをする人間の視点でいえば、自分たちが作ったものを「なんとか有効に役立てたい」と思う一方、経営者としては、「従業員の労働価値のすべてを評価してほしい」という気持ちが強いといいます。
パンの耳をどうにかしようという気持ちが段々と大きくなっていた矢先、吉岡さんは現在から6年ほど前に突如、脊髄梗塞という障がいを背負い、約半年間入院をしていたとのこと。
やっとの思いで退院してから約1年半後、新型コロナウイルスが流行。自社の売上が、前年対比マイナス90%ほどになってしまったそうで…。
当時は、売上のために「パンをなんとかしないと…」と必死にやっていたんですけど、ある時、パンじゃなくてもいいと思ったんです。「でき上がったものが、違う形でもいいんじゃない?」って。
そんな中、Toast Ale(トースト・エール)のニュースを見て、「へえー」と思いましたね。
廃棄されるパンを原料の一部に使ってビールを醸造するイギリスのメーカー、Toast Aleをヒントに「これを日本でやるんだったら、うちの会社しかない」といった使命感のようなものが直感で働いたといいます。
とはいえ、ビール作りに関しては全くの未経験者。外部に頼るしかない中、全国のブルワーへ手当たり次第にメールを送った結果、何名かのブルワーから反応があり、試験的に協力してもらえることになったそうです。
それが今では、周囲の協力もあり、自社のブルワリーを立ち上げるまでに至りました!
醸造所内部の設備
長年パン作りと真摯に向き合い、ずっと『食』に関わってきた者として「おいしいものでないと絶対に許せない」というポリシーがあるとか。
パン作りの延長で生まれたアップサイクル・ビールが、クラフトビールを愛してやまない『クラフトビールギーク』の人たちに届き、「おいしい」といってもらうのが『大きな喜び』だといいます。
また、『クラフトビールギーク』には、ビールのサイドストーリーを知って楽しむ人も多いとのこと。
「おいしい」と口にしているビールの背景に、余ったパンの耳を有効活用できているというストーリーがあるのは、ものすごく豊かなことです。サイドストーリーを知るのは、生産者だけでなく消費者にとっても意味のあることだと思います。
一経営者としての視点から、サステナビリティとの向き合い方についてこう語ってくれました。
従業員を背負って事業を行っている以上、何事も継続しなければ意味がありません。継続していくことが唯一、サステナブルな暮らしや社会につながると思うんですよね。
パンの耳の袋詰め作業を行う従業員
最後に、ブランドネームに込めた思いと、今後の展望について聞いてみました。
作り手の思いをパンに注ぐだけではなく、それを食べる人がどのようなライフスタイルを送るのか、誰とどんな時に食べるのか。ビールであれば、誰と一緒に飲んで、どのような時間を過ごしてほしいのか。食べたり飲んだりした後の『その先』まで考えることが、一番重要だと思うんですよね。
こうした考えこそが、『Better life with upcycle』というブランド名の根幹にあると思っています。
また、ブランドネームに『ビール』というワードを入れていないのは、「ビールなどお酒以外のものも介入していく余地を作るため」とのこと。
『食物繊維がしっかり摂れるパン』のように、消費者の嗜好を何かしら満たせるものとしてパンを還元していくなど「今後もやれることはたくさんあります」と語っていました。
醸造所の看板
サステナビリティについて考えるきっかけに
パンの耳に限らず、その他さまざまな食材が、消費者のもとへ届く前に廃棄されています。
『Better life with upcycle』の製品をきっかけに、ライフスタイルがより充実するだけでなく、サステナビリティへの関心を高める人が今後増えていくでしょう。
醸造所のエントランス
【Better life with upcycle】
ウェブサイト:Better life with upcycle
Instagram:upcycle_beer
[文・構成/grape編集部]