【TOKYO MER感想 第2話/ネタバレあり】未熟な新人がプロフェッショナルの集団にいるということ
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2021年夏スタートのテレビドラマ『TOKYO MER』の見どころを連載していきます。
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社会人になった新人の頃、あるいは転職直後、はたまた部署替えの後。
自分の使えなさ加減がつらくて「どうせ私じゃなくてもいいのに。なんで私が」と惨めさに涙した経験は、多くの人があると思う。
そんな誰にでもありそうな傷口をえぐり、更に塩を塗り込んでくる『TOKYO MER』(主演・鈴木亮平、脚本・黒岩勉)である。
自分の存在価値を見いだせない研修医
第1話から大好評だったこのドラマ。注目の第2話は、ハードな現場の職業における新人のありようを問いかける回になった。
ノンストップの危機と、驚愕の疾走感あふれる医療シーンで視聴者の度肝を抜いた1話に続き、2話目の序盤の医療シーンも素晴らしくテクニカルで速かった。
序盤の事故現場は鉄骨が落下した工事現場。ここで手練ればかりのMERメンバーの中で唯一の研修医・弦巻比奈(中条あやみ)は、判断ミスで患者の命を危険に晒し、さらに、いい訳を重ねたことで自己嫌悪におちいってしまう。
チームの中で自分の存在価値を見いだせず気持ちが揺らぐ比奈。また、MER創設時、リーダーの喜多見が履歴書から研修医の自分を指名してピックアップしたことを聞き、理由が分からずにさらに悩むことになる。
指名の理由は、比奈が履歴書に書いた「人の命を救いたいからです」という一文だったと後になって明かされるのだが、実際のところ、広い意味で喜多見は「誰でもよかった」のだと思う。
今ある技術や才能ではなく、シンプルに意欲がある研修医ならそれでよかったのではないか。
新人を1つの組織に迎え入れるとはそういうことで、スタートの「誰でもいい」を「この人でなければ」に変えていくのは、結局、苦楽をともなう成功と失敗の経験だけである。
それが分かっているから喜多見は落ち込む比奈を前に多くを語らないし、周囲がすすめる慰労の食事会にも乗り気ではない。
そんな状況で発生する後半の山場、祭りで起きた燃料タンクの爆発事故で、喜多見は比奈に一人前の救急医としての判断と医療行為を求める。
不安と恐怖に尻込みしていた比奈が、今作の象徴ともいえる。傷病者の重症度などを示すトリアージタグに一瞬視線を落とし、意を決して事故現場に駆け出すシーンの数秒のタメは見事で、鳥肌の立つような名場面になった。
そして思いもよらぬ事態で比奈は単独で手術を行うことになるのだが、その手術のテンポが実に『遅い』のである。
第1話、第2話の序盤と、私たち視聴者が喜多見の手術の速いテンポを見慣れたからこそ、はっきりと遅さが分かる。
しかし、比奈の迷いや未熟さ、それでももがきながら患者を救おうとする懸命さが際立ち、ここもまた、うなる演出だった。
周囲の連携が光る『TOKYO MER』第2話
高度な技術と判断力を必要とする専門職を育成する現場はどのようにあるべきか。厳しい判断を孤独に耐えながら下すための訓練とはどのようなものか。
それは繰り返し、成功と同じくらいの失敗を経験し、苦い思いに耐えながら会得するものだろう。
未熟な比奈に寄り添うように手術前に二度深呼吸をうながし、手術の準備に足りないものを喚起し「任せてください」と力強く応える、菜々緒演じるすご腕看護師・蔵前のたたずまいが実によい。
そしてチーフの喜多見は、比奈が決定的なミスに至る前に駆けつけて、「新人としての芽」をつぶさぬようにしっかり守る。
賀来賢人演じる厚労省医系技官の音羽は、組織の中で生きる自分自身の弱さやずるさを比奈のそれと重ねてしまい、おそらく彼女を案じてはいるのだろうが、きつくあたってしまう。
しかし、現場で尻込みする比奈を決定的に動かしたのは、「お前は医者だろう。だったら全力で患者を救え」と、音羽がげきを飛ばしたことだった。
それは迷いなく患者を救うことに集中したいという、音羽自身の内心の願いの裏返しのような言葉だったのかもしれない。
危険で消耗の激しい専門職だからこそ、スタートラインから後進として新人を育てる必要がある。『育成の現場』の物語となったこのエピソードのてん末は、比奈にとっては必ずしも万事成功とはいかず、少しほろ苦いものになる。
しかし、視聴後の印象はふわりと明るかった。悩める研修医は技術は未熟でも、少なくとも「なんで私が」は脱ぎ捨てたのである。
それにしても、車椅子の危機管理対策室室長の駒場といい、堂々の胆力と軽やかな人たらしぶりを発揮する赤塚都知事といい、物語の脇を固める人物も魅力的なキャラクターぞろいである。
物語は2話目、序盤。まだまだ極上の物語に酔える日曜夜9時が待っている。
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[文・構成/grape編集部]
かな
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