自分がどんなふうに言葉を発し、会話をしているか 自分自身の在り方を今一度見直してみよう
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
『お喋り』のちょっと気になったことから
季節に関係なく、京都は一年を通して多くの観光客が訪れます。インバウンドが戻り、人気のエリアでは7割ほどが海外からの観光客ではないかと思うほど。
レンタルの着物を着て楽しそうに歩いている人たちも多く、その姿は冬の日にあっては少々寒々しく。そんな思い思いに京都を堪能している人であふれていました。
街の中で人の間を縫うようにして歩くことに疲れ、あまり人の訪れない静かなお寺へ。ぼーっと、静寂を味わうのにちょうどいいお寺が、街中から少し歩いた場所にあるのです。
門の前にある大きな楠に迎えられ、お寺を一巡りし、庭に面した部屋に行くと、20代と思しき5人の女性たちが大きな声でお喋りをしていました。
静けさを求めていた人たちには、そのお喋りはとても気になるものだったと思います。
心頭滅すれば火もまた涼し……とできればいいのですが、それは難しい。ただ、女性たちの喋る声を耳にしながら気づいたことがありました。
音は、空気を震わせて伝わっていきます。空気の振動です。その影響は空気中に広がっているということ。
次に、どんな音か、ということが問題になります。雑音による空気の振動なのか、心地よい音による振動なのか。女性たちのお喋りはどんなふうに空気を震わせているのか。
少々想像を逞しくすると、その振動は庭全体に広がり、すぐそこの山へも広がっていくような気がしました。
ということは、日常の中ではありとあらゆる空気の振動が折り重なり、交差しあっているということになります。
繁華街は音の洪水のようです。振動は波ですから、私たちの体にぶつかります。その影響はどれほどのものなのかわからないのですが、ゼロということはないでしょう。
また、どんな音なのかということもあるでしょう。心地のいいものかそうでないか。心地のいい音でしたら、心も体も喜びそうです。
もうひとつ気づいたことがあります。女性たちのお喋りに『間』がないのです。誰かが話す。そこに畳みかけるように、被せるように誰かが話す。まったく途切れることがないのです。
「行間を読む」という言葉があります。文章の行間にある思い、空気感を読み取ることです。
同じように、会話の『間』というのは、相手の話を受け止める瞬間であったり、噛み締める瞬間であったり、また言葉にならない言葉を返す瞬間です。
畳みかけるように連なる会話は会話ではなく、ただ言いたいことを言い合っているだけになりかねません。
音は振動であり、発する言葉も振動である。それは、少なからずまわりに振動として影響を与える。会話の『間』の中にある何かを感じ取る。お互いの言葉を受け止め合う。
若いとき、私も友人たちと延々とお喋りしていたことを思い出します。何を話したのか、帰るときにはすっかり忘れているほど、他愛もない内容だったと思います。
しみじみと静寂を味わい、『間』を味わえるようになるには、それなりの年月がかかるのでしょう。
今、自分がどんなふうに言葉を発し、会話をしているか。自分自身の在り方を今一度見直してみようと思います。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」