かたちあるものはいつかは壊れる 金継ぎから考える私たちの『未来』
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
壊れの中に新たな美を見出す〜金継ぎという美学
「100年後を考えるのなら、100年前を考える」
先日、金継ぎ体験のワークショップで、漆芸修復師の清川廣樹先生の言葉が胸に刺さりました。それまで金継ぎとは器や文化財などの修復の伝統的な技術と認識していました。しかし先生のお話を聞き、金継ぎとは単に技術ではなく、日本の心の表れだということに感動を覚えました。
金継ぎは破損した箇所を修復し、そこに「新たな景色」を生み出す。そして「新たな価値」を与えること。壊れた茶碗を美しく修復すると、継がれた箇所の美しさが新たな景色となる。
そしてこの先何十年、何百年と存在し続ける。100年先を考えながらの修復というのは、時空を超えた旅をするような作業なのかもしれません。
「壊れの中に新たな美を見出す」
「かたちあるものはいつかは壊れる宿命にあると考え、壊れることを悪いこととは捉えません。壊れた器に自らの人生を投影し、傷ついたり失敗したことを否定せずに受け入れ、未来をもう一度作り直すという考えが、金継ぎ修復に重ねられています」
壊れることを悪いこととはしない。確かに、その価値観を人生に当てはめたとき、自分に対しても人に対しても寛容さが生まれるのではないか。その寛容さこそ、いにしえから育まれてきた精神性ではないでしょうか。
少し歪んでいる骨董の器を味わい深いと思うか、粗悪品と思うか。100年以上前の職人さんたちがどんなふうに作っていただろうと思いを馳せるのも楽しいものです。
失敗を失敗とせず、金継ぎを施すように再生していく。人生に重ね合わせると、なるほど味わいがまた深くなるのです。
10年かけて漆の木を育て、1年間樹液を採集し、そこで木の命は終わります。そこにまた植林し、10年かけて育てる。1本の漆の木から採れる漆は牛乳瓶1本分ほど。それを集め、幾つもの工程を経て美しい漆となり、そこからまた何人もの職人さんの手を経て、作品、商品となる。
当然、漆のものは高価ですが、そこには金額的な価値を超えた価値があるように思います。
私たち日本人が失ったもの、忘れてしまったもの。失った経済はいつか復活させることはできますが、失った文化、伝統、精神性を取り戻すことはできないでしょう。
世界中で心が痛むことが起こります。SNSなどでは、傷つけ合うような心ない言葉が飛び交います。
でもまだ間に合う。間に合うと信じたい。それには、美しいものに出会い、日本の言葉を味わい、自然の中に身を置くこと。命の尊さを思うこと。そして同時に自分の未熟さを知ること。二度と取り戻せないものがあるのです。
「寛容であること」そして「継承していくこと」
それは、このような文化を受け継いだ私たちひとりひとりの「仕事」なのだと思います。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」