「打つ」と「書く」では大違い きみに書く物語
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文房具の名前を冠した映画タイトルはいくつか思い浮かぶ。「イレイザーヘッド」「シザーハンズ」「デスノート」……。そんな中、そのままずばり「The Notebook」なるタイトルを持つ映画がある。
聞き覚えがない方も多いかもしれない。それもその筈、こちらはアメリカでの原題だ。日本公開時のタイトル「きみに読む物語」(2004)を聞けば、ピンとくるのではないだろうか。
舞台はとある療養施設。認知症を患い入院している老女の元に、定期的に通っている老人がいた。彼の目的は女性に物語を読み聞かせること。それは1940年代から始まる、とある若い男女の恋物語だった――というあらすじ。
タイトルにある“ノートブック”とは、老人が読み聞かせる恋物語が書かれたノートを指す。これが結構分厚い。しっかりと装丁された、ノートというよりは本に近い物だ。物語が語られる長さを考えると、かなりの分量があると思われる。
パソコンやスマホに指先で打ち込むことに慣れてしまった身としては途方もなく感じられる量だが、物語を綴った人物は全て手で書いたのだ。そこには多大な時間と労力を費やしたに違いない。どうしてそこまで出来たのだろうか。
作中では他にも「書く」という行為が描かれている。
恋物語の中で青年が、離れ離れになった恋人に向けて手紙を書くシーンがある。彼はその手紙を365日毎日書き続けるのだ。やがて画面には、束となった手紙が登場する。
同じ長さの文章でも、パソコンで打ち込むのと手で書くのでは、使うエネルギーの量が天と地ほど違う。前者は好きなように切り貼りが可能だし、一文字目を打てば勝手に表示してくれる。一方後者は文章の構成を直そうと思ったら一から書き直しということにもなりかねない。何より手が疲れる。
だが、手書きにあって電子データには無いものがある。それが「厚み」だ。実際に目に見え、手で触れられて重さも感じられる紙の束は、ダイレクトに人の心を揺さぶる。そこに手書きの文章があれば、言葉より先に強い想いが伝わる筈だ。
恋物語がどうしてわざわざ分厚いノートに手で書かれたのかという疑問は、記した人物の正体が明らかになった時に解決する。そこにもやはり、二人の物語をどうしても未来に残したいという強い想いが込められていたのだ。
いつの間にか文字を「書く」ことから「打つ」ことに慣れている自分に気付かされる作品でもある。二つの“手書き”と、そこに宿った想いが成就するかどうかは、ぜひ映画をご覧になって確かめていただきたい。
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