初夏の訪れを美しく告げてくれる『小判』のような山吹の花
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こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。
ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独言』にお付き合いください。
山吹の花を見るたびに…。
春は桜や桃のようにピンク系の花が多いように思いますが、黄色の花も結構ありますね。タンポポ、チューリップ、マリーゴールド、そして山吹…。山吹は拙宅にもありますが、この黄色の花が咲く度に、太田道灌の山吹の逸話を思い浮べています。
太田道灌(おおたどうかん)は、江戸城を築城した武将であると知られていますが、七重八重の 山吹の花の方がもしかしてより知られているかもしれませんね。
「太田道灌」の騎馬像
太田道灌が 或る日、鷹狩りに出かけた所、激しい俄か雨に出会い、近くのみすぼらしい農家に立ち寄り、雨を凌ぐ蓑を貸してほしいと頼みました。
出てきた少女が、黙って差し出したのが蓑ではなく、山吹の花一輪でした。道灌は 花ではなく蓑だと怒って帰ったのですが、少女が、蓑1つ無い悲しさを、山吹が実(蓑)をつけない花であることを、和歌に譬えて差し出したことを 道灌はあとで知り、己の不明を恥じて この日より歌道に精進し、武将でありながら歌道通になったと伝えられています。
この黄金色の五弁の花、山吹は、八重と一重がありますが、一重には小さな実がつきます。でも一重より八重咲きの方が黄金色で見栄えがするので、花屋さんでは八重一色のようですね。
ヤマブキ 一重
山吹の花のこの黄金色を江戸時代は、お金の小判のことを『山吹色』と例えて言っていたようです。時代劇で『山吹色』といえば小判のことです。
取留めのないことをお話し致しましたが、七重八重のこの山吹の花は、私にとっては初夏の訪れを美しく告げてくれる『小判』のような花であります。
元和歌
「七重八重花は咲けども山吹の実(蓑)の一つだになきぞ悲しき」
後拾遺和歌集より 中務卿 兼明親王 作
<2020年4月>
フリーアナウンサー 押阪 忍
1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2019年現在、アナウンサー生活61年。
日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。