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電車でもめる酔っぱらいと高校男児 乗客が見て見ぬふりをしていると…

By - grape編集部  公開:  更新:

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※写真はイメージ

2020年8月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。

今回は、応募作品の中から『光の国からの使者はいるんだ』をご紹介します。

光の国からの使者はいるんだ

もう30年近く前の、ある爽やかな光景が忘れられない。

その日私は、いつもの3時間残業を1時間で切り上げて会社を出た。ターミナル駅から私鉄に乗り、コンビニで缶ビールでも買って帰ろうなどと思ううち、うとうとし出した。

するとどこか遠くで男の怒鳴り声がする。そう思ったのは私が居眠りをしていたせいで、それは目の前で繰り広げられていた。

「なんや、お前。高校生やろ?」

「だから何なんですか?」

50年配の男と男子高校生がもめている。事情の発端がよくわからず、しばらく聞いていたが、どう見ても高校生が酔っ払いに絡まれているようだ。

ーこんな時間から相当飲んでるな。

 席はちらほら空いているが二人はドアの前で立ったままだ。酔っ払い男はますますヒートアップし、いまにも高校生に掴みかからんばかりだ。見るとどの乗客も体を硬くし、薄目を開けて見て見ぬ振りをしている。なかには寝ているふりをしているような者もいる。

かくいう私も、はっきり目覚めるにつれ体がこわばってきた。

ー助けてやりたいが、下手に口を出して怪我をさせられてもなあ……。

そんな自己弁護をしている時だ。酔っ払い男が高校生の胸を拳で突いた。

ーやばい。これは大ごとになるぞ。

そう思った時、それまで寝たふりをしていると思っていた30歳くらいの男性が、突然、席を立った。

「そんなことをしたらダメでしょ!」

男性は躊躇せずに酔っ払い男の腕を掴んだ。男は「せやかて、こいつが悪いんですねんで」などと言いながら、なおも高校生に暴力を振るおうとする。ちょうどその時、列車が停車しドアが開いた。その駅が彼の降りる駅だったのか、高校生は出口へと向かう。そして男性に一礼して降りていった。

ーやれやれ。

私を含めみながそう思っただろう。

ところが今度はその酔っ払い、止めに入った男性に絡み始めたのである。しかも、男性が席に着くとその隣に座って「あれはあいつが悪い」と言い訳がましいことを言う。

ー彼、どうするんだろう?

すると次の駅でその男性が降りて行った。しかし酔っ払い男は降りずに、反対側に座っていた若い女性に絡み始めたのだ。

ーああ、勇敢な彼。降りて行かないで。

心の中で情けないことを考えながら窓から外を見ると、さっきの男性が走って駅員のところに行き、なにやら告げている。駅員はさっと敬礼をして、駅舎に駆け込むのが目に入った。

次の駅に着くと駅員が2名乗り込んできて、酔っ払い男はそのまま御用となったのである。絡まれていた女性はもちろん、乗客はみな笑顔だった。

あの勇敢な男性ももう還暦を迎え、高校生はいい中年のおじさんになっているはず。

乗り合わせた私たちはもちろん、高校生だった彼には「この国もまだ捨てたもんじゃない」と思う記憶になったことだろう。

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『光の国からの使者はいるんだ』
ペンネーム:かず爺

エッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中!

2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。

第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。

今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。


[構成/grape編集部]

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