零細企業の社長が妊娠した女性に「辞めてくれ」と通告 小さい会社では許されてしまうのか?
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すると社長から告げられたのは、「事務員が長期間不在になるのは厳しい。ぼちぼち辞めてくれ」という衝撃の言葉。この社長は労働法を遵守する気がなく、「零細企業」であることを盾に、理不尽を通してくるとのこと。
夫の収入が低いAさんは働かなければならず、途方に暮れています。このような措置は許されるのでしょうか? 琥珀法律事務所の川浪芳聖弁護士に見解を伺いました。
Aさんの受けた措置は許される?
川浪弁護士:「人手が足りないという会社の事情も理解できますが、妊娠したことや育児休暇(以下では「育児休業」といいます)を申し出たことを理由に退職強要することは、いわゆるマタハラ「マタニティハラスメント」に該当し、許されません。
育児介護休業第10条は育児休業を申し出た、または、育児休業をしたことを理由に労働者を不利益に取り扱うことを禁止していますし、男女雇用機会均等法も第9条3項で、妊娠・出産を理由に労働者を不利益に取り扱うことを禁止しています。
ここにいう「不利益な取り扱い」には、解雇や退職強要・労働条件変更の強要も含まれます(厚生労働省告示である性差別指針、育介指針)。
人手が足りなくて困るという会社に対しては、子育て支援政策を推進するために企業に支給される「両立支援等助成金」などの助成制度を利用してもらうことを積極的に考えてほしいと思います。かかる制度については、厚生労働省のホームページに詳しく紹介されています。」
零細企業であろうとも、「妊娠」を理由に退職を迫ることはマタハラであり、「不利益な取り扱い」に該当するようです。
零細企業でも育児休暇は認められる
「零細企業だから育児休暇は…」という経営者の認識、これは間違いないのでしょうか? 川浪芳聖弁護士に聞いてみると…
川浪弁護士:「いわゆる零細企業であっても育児休暇は認められます。育児休暇については、育児介護休業法(正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)が規定しています。
同法のうち「育児」に関する部分に限っていえば、出生率の低下傾向が顕著となるなかで、その一要因として考えられる仕事と育児の両立の困難さを改善するために、上記法律が制定されました。
このような事情を目的として育児介護休業法は制定されたわけですから、当然、中小企業・零細企業であっても同法の適用を受けます。また、同法は、第25条で、いわゆるマタハラ防止措置を講じることを事業主に義務付けています。
余談ですが、同法は、第5条において、期間の定めのない雇用契約を締結した労働者、または、期間の定めのある雇用契約を締結し、①当該事業主に1年以上継続雇用されていて、②その養育する子が1歳に達する日をこえて引き続き雇用されることが見込まれる労働者のいずれかで、1歳未満の子を養育する者に対し、育児休暇を取得することを認めており、育児休暇の申し出を受けた企業は、原則としてその申し出を拒むことはできません。」
零細企業であっても、育児休暇は認められるようです。
Aさんのような措置を受けたらどうすべき?
法律で認められるといっても、Aさんの会社のような措置を受ける可能性はあります。実際、零細企業に勤める女性が「マタハラ」を受けた場合どうすればよいのでしょうか? 川浪芳聖弁護士に対策などを聞いてみました。
川浪弁護士:「育児休業を申し出ても認めてもらえない、退職を強要された等のいわゆるマタハラを受けた場合、まずは会社としっかり話し合うことが重要ですが、実際には話し合いは困難と思います。
その場合、都道府県労働局に設置されている雇用環境・均等室に相談する、育児介護休業法第52条の4、第52条5が定める紛争解決援助制度を利用するという方法のほかに、弁護士に相談する・労働組合に加入して団体交渉を行うという方法が考えられます。
しかし、零細企業の場合、従業員数が少なく、人的関係が密であるため、育児休業取得後に復職しても「気まずさ」を感じてしまうことは避けられないかもしれず、その意味で限界があるといえます。」
零細企業特有の難しさもありますが、方法がないわけではありません。マタハラなど経営者から理不尽な措置を受けた場合は、協力者を募ったうえで、然るべき措置を取ることをおすすめします。
*取材協力弁護士: 川浪芳聖(琥珀法律事務所。些細なことでも気兼ねなく相談できる法律事務所、相談しやすい弁護士を目指しています。)
*取材・文:櫻井哲夫(本サイトでは弁護士様の回答をわかりやすく伝えるために日々奮闘し、丁寧な記事執筆を心がけております。仕事依頼も随時受け付けています)
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