人の心を引き寄せる『明かり』には、小さな人間の深い物語がある
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
シベリアの小さな明かり
『明かり』は、人の心を引き寄せる。夕暮れどきに家の明かりが灯り始めると、家路を急ぎたい気持ちになる。
夜遅く、オフィスビルの所々についている明かりを見ると、こんな時間まで仕事をしている人の大変さを思う。
クリスマスのイルミネーションに華やぐ気持ちになり、時にはふと淋しい気持ちが胸の中を風のように吹き渡る。
『明かり』は、そこに人がいるということであり、生活があるということ。そこにある命の気配に、私たちはほっとするのかもしれません。
シベリアの奥地にひとりで住んでいるおじいさんの暮らしがYouTubeで紹介されていました。近くの町までは30km以上あり、歩いて片道5時間。究極の『ポツンと一軒家』です。
冬は−70度にもなるという極寒の地の丸太小屋は十分に断熱されてなく、窓は壊れていてビニールのようなものを貼っているだけ。そこからの冷気が厳しく、暖炉を燃やしても十分に暖かくなりません。
おじいさんは極寒の中を毎日のように薪にするための木を切りに。水は凍った湖から氷を切り出します。また電気が通っていないので、自分で作った電池を使って、一日一度ラジオを聴く。
食べるものは、冷凍庫のような外に保管するのですが、熊など動物たちに見つからないように保管するのに難儀する。飼っている2匹の犬に自分の十分とは言えない食べ物を分け与える。
おじいさんがなぜこのような生活を選んだのか、番組では多くは語られませんでしたが、あるとき大切な家族を失い、その地にたどり着いたと。
見ている者には、自分に試練を与えるような、自分を罰しているような厳しい暮らしに思えます。おじいさんの顔の深い皺に、そんな物語が刻まれているようです。
夜になればこの丸太小屋にろうそくの明かりが灯ります。暖炉の火の明るさも、ビニールの窓からもれているかもしれません。
それは、そこにおじいさんが暮らしている、命がある証なのです。
ひとりでよくパリを旅していた頃、一眠りして窓を開けると、シベリア上空の真っ暗な大地の所々にオレンジ色の明かりが見えました。
都市の明かりではなく、おそらく小さな町の明かりでしょう。ああ、こんなところにも人は暮らしている。そんな明かりを見ると、不思議な、そして少し泣きたいような気持ちになったことを覚えています。
少し大げさに言うなら、命のぬくもりに触れたような。ひとり旅の自由気ままさの後ろ側にある淋しさが慰められるような。
いま、ヨーロッパ便はロシア上空を飛ぶことはできませんが、おじいさんの丸太小屋の小さな明かりが見えるでしょうか。
明かりには、小さな人間の深い物語があります。それは、そこに命が存在しているという証であり、希望です。
人が明かりに惹かれるのは、希望を見出すからなのかもしれません。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」