発達障害のピアニスト・野田あすかさん 中居正広の言葉が誤解を突く
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「じん、とくる」
「心が温かくなった」
ピアニスト・野田あすかさんの演奏を聴いた人々は、涙ぐみながらこう話します。
人々の心を揺さぶる美しいピアノを奏でるあすかさんには、生まれながらのハンディキャップがありました。
それは『発達障害』です。
発達障害のピアニスト
2017年7月28日のTBS系『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』では、発達障害についての特集が放送されました。
番組では、野田あすかさんに密着。
あすかさんは脳の欠陥が原因で、視覚情報をうまく理解できません。そのため、ピアニストでありながら、楽譜を見ても瞬時に判断して鍵盤を弾くことができないのです。
新しい曲を覚えるには、楽譜をマーキングしてから自分で音読し、それを録音します。次に、録音を聴きながら文字に起こし、音階に合わせて折れ線を書き込む作業です。
さらにカスタネットでリズムをとり、録音機能のあるエレクトーンを使用し…気の遠くなるような、たくさんの作業を積み重ねてようやく、曲を覚えることができるのです。
楽譜を読めないあすかさんが、自ら生み出した方法。1曲を覚えるのにかかる時間は、約1か月にもおよびます。
曲を覚えても、演奏をする際には楽譜をピアノに置く必要があります。演奏中に頭の中でメロディが流れ出し、それに引きずられてしまうのです。
その『衝動性』も発達障害の症状の1つ。
あすかさんの日常を通じ、番組内では発達障害の症状が紹介されました。
母親から、「赤いスプーンの絵が描いてある砂糖を買ってきて」と頼まれたあすかさん。
しかし、スーパーにその砂糖がないとパニックに陥り、泣き出してしまいます。
ハンディキャップのない人が当たり前のようにできることが、できないあすかさん。1982年生まれで、番組放送時は35歳です。
彼女が発達障害だと診断されたのは、22歳の時でした。
人とコミュニケーションが取れず、自分を傷つけることも
子どものころ、学校でのあすかさんは成績が優秀な優等生でした。そのため、症状に気付かれずに成長してしまいます。
ですが、「模様が理解できない」という症状のせいで、人の顔が覚えられず、同級生とのコミュニケーションがうまく行えなませんでした。
それが原因でいじめに遭い、苦しみのあまり自傷行為に発展してしまったことも…。
大学へ進学後も、人間関係によるストレスが原因で、自分が自分であるという感覚が失われる『解離性障害』を発症してしまいます。
短期留学をしたウイーンで倒れたことをきっかけに、22歳にしてようやく、発達障害だと診断されました。
発達障害であることを受け入れ、ピアニストへの道へ導いてくれる恩師と出会ったことをきっかけに、気持ちをピアノで表わし始めたあすかさん。
しかし、それでも苦しみから完全に解放されることはありませんでした。
パニックを起こして自宅の2階から飛び降り、右足を粉砕骨折。いまでも、移動には車いすや杖が必要です。
衝動的、コミュニケーションがうまく取れない…あすかさんの言動に周囲の人々は悩まされてきましたが、誰よりも悩み、苦しんでいたのはあすかさん本人でした。
苦しみぬいた彼女だからこそ、人の心を打つピアノが演奏できるのでしょう。
見守る私たちが誤解をしてはいけないこと
学生時代にいじめを受けた経験から、「同じ服を着た人が怖い」と感じてしまうあすかさん。
ですが、初めてのオーケストラとの共演を見事に果たします。
番組で、あすかさんは涙を流しながら、笑顔で語りました。
最後の言葉は、とても力強いものでした。
あすかさんを特集した『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』を観た人々は、あすかさんの生きかた、そして番組の構成を絶賛。
そして何より、注目されたのはMCである中居正広さんのコメントでした。
番組では、ハンディキャップを持ちながらも新たな1歩を踏み出した人物の例として、アスペルガー症候群を持つ15歳の少年のエピソードも伝えました。
黒板の文字がゆがんで見え、ノートに書き写すこともできなかった少年。高校への進学はできませんでしたが、コーヒーに対する情熱は並外れていました。独学で知識を身に付け、両親のサポートで店をオープンするまでになります。
中居正広さんは、あすかさんと15歳の少年のエピソードを受け、ゲストの教授に対してこうたずねます。
発達障害がある人=天才的な才能を持つ人、ではない
周囲の理解を得て、もともと持っていた才能を伸ばすことができた人は一部で、すべての人ではないのです。
誤解されがちな事実を、中居さんがきちんと口にしたことを、視聴者は絶賛しています。
番組に出演するにあたり、発達障害について深く学んだのでしょう。慎重に選ばれた言葉です。
「発達障害に対する理解が深まるきっかけになった素晴らしい番組だ」と評価されたのは、中居さんの言葉があったからかもしれません。
逆に、発達障害についての誤解が多くの人々の間にあるということも明らかです。本人や家族ですら、症状を理解し向き合うことが難しいハンディキャップです。
周囲の人々ができるのは、まず「知る」ということからなのでしょう。
※記事中の写真はすべてイメージ
期間限定公開 野田あすか作曲・演奏『哀しみの向こう』
[文・構成/grape編集部]