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プリキュアが大切にする『多様性』と『自己肯定』 プロデューサー内藤圭祐氏にインタビュー

By - grape Japan 編集部  公開:  更新:

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© ABC-A・東映アニメーション

女の子向けアニメのプリキュアシリーズ。2004年『ふたりはプリキュア』の開始から、2018年で15年目を迎えました。シリーズ15作目となった『HUGっと!プリキュア』のプロデューサー内藤圭祐さんに今作に込められた想いなどお話をうかがいました。

本インタビューは、2018年7月30日にgrape Japan 編集部の外国人記者により行われたインタビューの内容を再編集してお届けするものです。

『HUGっと!プリキュア』 オープニング&エンディングについて

ーー本日はお時間をいただき、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。

内藤氏:ありがとうございます。よろしくお願いします。

ーーでは早速、質問をさせていただきます。『HUGっと!プリキュア』オープニングでは、さまざまな職業が映し出されます。キャビンアテンド、ウェイトレスで、保育士など、主に女性向けの職業が登場しますね。エンディングでは歌詞の中に、社長、エンジニア、研究者など、さまざまな職業が登場します。最初からそのようにしようと考えていたのですか?

内藤氏:そうですね。『HUGっと!プリキュア』のいくつかの要素とテーマの1つに、「子どもたちの未来はもう無限大に広がってるよ」というのがあります。

分かりやすくいろいろな職業になれるんだ、自分はこれが苦手だからこれはやめようとか、そういったことではなく、「何でも可能性はあるんだよ」っていうのを伝えたくて、前期のエンディングの歌詞なんかは、分かりやすくそのお仕事をいろいろ盛り込んでもらいました。

未来がにぎやかで、たくさんの可能性があるという感じが伝わるといいなと考えていました。オープニングに映ってる絵に関しては、女性だから、というのは一切なくて、子どもが憧れる職業、人気でキャッチーなものを考えました。

ーー女の子も男の子も分けずにということですか?

内藤氏:基本的にプリキュアのメインのターゲットは女の子っていうのはあるので、より女の子に人気の職業は参考にはしました。

『HUGっと!プリキュア』が大切する多様性、自己肯定感

ーー歌詞中で「ハグ(HUG)」と「組む」と歌い、「ハグ組む」といった言葉遊びのような歌詞がありますね。ほかにも随所、例えば「HAGUKUMI HALL」とか、そういったワーディングでつづられていて、『HUGっと!プリキュア』という名前には、やはり『育成』という意味が含まれているという理解でよろしいでしょうか?

内藤氏:HUGについては、『育む』もそうですし、お母さんが子どもをハグするのもそうですし、友達同士でハグをして握手以上の密な絆の表現にも使えます。

『HUGっと!プリキュア』を構成する要素の1つに赤ちゃんの子育てもありました。オープニングの歌詞については、こちらから番組のテーマや要素をお伝えし、それを作詞家さんにくみ取っていただいたものですが、言葉選びのセンスなど、素晴らしい歌詞だなと思っております。

全体のテーマに触れますが、『HUGっと!プリキュア』が大切にしているものは、『多様性』であり、『自己肯定感』だったりします。

冒頭に主人公の野乃はなが、「フレフレ!みんな、フレフレ!私」っていってるんですけど、その順番に非常に議論を重ねたポイントで、もしかしたら、一般的には、「フレフレ!私」で自分を鼓舞した上で、「フレフレ!みんな」と分け与えていたのかなとも思いますが、あくまで自分を奮い立たせるというか、主人公の野乃はなの台詞にもあるんですけど、「自分のなりたい野乃はな」とか、自分というものをちゃんともってほしいというか。

ーー超イケてる大人のお姉さんに、自分はなりたいっていうことですね。

内藤氏:そうですね。「自分にもっと自信を持っていいよ」とか、「自分にはもっと可能性があるんだよ」とか、もっと自分を好きになっていいんだよっていうのを、なんとなくうち出していきたかった。その先に未来は広がっていて、なりたいものは何でもなれるんだよっていう、そういう流れですかね。

ーーなるほど。ことさらに、「自分を愛する大切さ」という、「自己肯定」とおっしゃったんですけど、それがいまの時代に特に必要だと感じるところがあると?

内藤氏:社会問題からとっかかりを得たということはないんですけど、毎年毎年テーマを変えていて、多様性っていうのはどのシリーズにもわりと入ってはいるんですけど、『夢』だったり、『大好き』っていうテーマだったり、プラスアルファでいろいろある中で、今回は自己肯定が軸になるんじゃないかっていう選択をしました。

そこに、特に社会的背景は意識はしていなくて。でも、そういうテーマにしようって僕だけで決めたわけではなくて、監督とシリーズ構成、みんな一緒になって決めているんですけど、「そのテーマいいね」ってみんなが思えた背景には、なんとなくこの社会のいまの空気を感じた上での、「しっくり来た」っていうところはもしかしたらあるかもしれません。

© ABC-A・東映アニメーション

ーー『HUGっと!プリキュア』はプリキュアシリーズの中で、赤ちゃんを育てることが中心的な要素になる、初めてのアニメということだったのですが、見ている子どもに、お母さんになることをポジティブに描きたいという意図もありましたか?

内藤氏:いいえ、それは決してありません。これまでも何かしらのお世話する要素が入ったシリーズはありまして、それは妖精とか、ファンタジックな対象でした。今回、初めて人間の赤ちゃんを育てることになりますが、それこそ、両親がそろっていて、そこに生まれる赤ちゃんという家族像がモデルケースなんだよという見えかたには、絶対ならないように一番気をつけていました。

なので、メインのキャラクターの背景はアンドロイドであったり、すごい令嬢であったり、シングル親であったり、専業主夫であったり。いろんな家族の形があるんだよっていう。そして、もちろん赤ちゃんは生まれる時はいろんな周りの人間から祝福されてほしいと思いますけど、赤ちゃんがいるからいいんだというか、そういうふうな見えかたも絶対しないように神経は使っていましたね。

後は育児に関しても、社会全体で育てられるといいなっていうのは、そこはわりといまの世の中から感じるところがあって。保育園を建設しようとしたら、近隣住民からの騒音、クレームによって建設ができないとか、ベビーカーを押して電車に乗るお母さんが肩身の狭い思いをするとか、いろいろなニュースを目にするので、育児というのは、みんなが協力しあって、お母さんが1人で頑張って、お母さん偉いねっていうのではなくて、父親だったり、周りの人、町ぐるみであったり、社会でみんなで育てていく存在であってほしいなっていうのは話していました。

ーー子どもたちにも理解できる部分はあるでしょうけれども、一緒に見ている親御さんに考えてほしいというのも大きいですか?

内藤氏:そうですね。視聴環境の調査をすると、大体、子どもがプリキュアを見ている間にお母さんたちは家事を済ますということもあったり、そこまで一緒に見てくれてはいないのかなとも思いますが、もし一緒に見てくれる親御さんがいらっしゃったら、見終わったあとに、これをきっかけにした親子の会話とかにつながるといいなっていうのはあります。

なので、親御さんたちが見て不快に思うようなものだったら、まず自分の娘には見せないでしょうから、そこもしっかり納得してもらうようなお話づくりっていうところは、非常に心がけてはおります。

ーーハリー(人間体に変身するとイケメンになる、関西弁のハムスター)というキャラクターについてちょっとお聞きしたいんですけれども。女の子たちがヒーローとして活躍をしている間に、家ではぐたん(主人公・野乃はなのもとに空から降ってきた赤ちゃん)のお世話をするのはハリーですよね。公式ホームページ上では、ハリーのことを『イクメン』と説明のくだりがありますが、子育てするのは女性だけではないというメッセージが、ここには含まれていますか?

内藤氏:はい。いま申し上げた、育児の形は十人十色いろんな形があっていいっていうメッセージでもあります。

後は、シリーズとしてのギミックの部分でありますが、これまでにあったようなファンタジックな妖精のお世話ではなくて、人間の赤ちゃんのお世話となった時に、中学生の主人公の女の子たちだけで育てるっていうのは、どうしてもちょっと話の作り上、無理が生じてしまいます。

事情を知って、社会的にもある程度信頼できる、大人に近いハリーという存在がいてくれることで、急に来た赤ちゃんを中学生だけでなんとか育てるというのが、無理なく進行できたのかなと思います。

ーー関西弁にしたことの意味合いはありますか?

内藤氏:そうですね。いろいろとキツイことをいっても、関西弁だと、やっぱり日本の感覚ですとまろやかに聞こえるので。

『HUGっと!プリキュア』 ルールー・アムールについて

ーールールー・アムール(元クライアス社・アルバイトのアンドロイド『型番RUR-9500』)についておうかがいします。ルールーの名前の由来は、カレル・チャペックの戯曲『R.U.R』(1920年発表。この劇の発表によって『ロボット』という言葉を創り出した、歴史的作品)であると考えていたんですけれども、合っていますでしょうか。

内藤氏:明確にこれから引用しましたということではなく、キャラクターの名前を決める時も、ストーリーを考える時と一緒なんですけど、プロデューサーとシナリオライターと監督で、いろいろなアイディアを出して、その候補にルールーという名前があったということです。これだからこれを引用しよう、これ素敵だから使おうっていうわけではなかったですね。

ルールーに関していいますと、どちらかというと『アムール』のほうがやっぱり愛というところで、まあ今後のストーリーにもつながっていくんですけど、そこはしっかり意味を持たせたうえで付けましたね。

ーー分かりました。では、第17話『哀しみのノイズ…さよなら、ルールー』についておうかがいします。

話の中でルールにこのような台詞がありますね「これは未来の世界だ。私は未来を奪われた人間を管理するために作られたアンドロイド。人々は時間を忘れ、何も望まず静かに人生を終える。そこには痛みも苦しみもない。これが新しい世界」と繰り返して、そこでシーンが切り替わるんですよね。

この台詞について、ルールーがすごく胸が痛くなるという場面がある。で、心が芽生えて、愛のプリキュア、キュア・アムールとなりましたが、つまり、そういう未来のない世界を否定したというメッセージが含まれていますか?

内藤氏:そうですね、もともとクライアス社でアルバイトをしていたルールーは、クライアス社のやろうとしていることの末端を担わされてはいました。いまもおぼろげながら、敵の目的というか、そこが明らかにはなりつつあるんですけど、人に感情があるとか、何かそういうもののせいで、苦しみであるとか苦悩も生じてしまう。いっそのこと歩みを止めてしまえば、いまの状態のまま明日を迎えることなく世界があれば、みんな幸せだろうというのが敵のボスのざっくりした発想ではあります。

第13話でルールーが潜入捜査ということで、はなの元に来て、クライアス社のボスと真反対の存在である、はなと出会います。感情豊かで、過去にはちょっとしたつらいこともあったけど、それでも前向きに明日を迎えるんだっていう、前に進める子と接することで、つらいこともあるけど、未来に進むことがいかに尊いことなのかという、そのロジックではなく、感覚で、アンドロイドが身に付けていた結果なのかなという気はします。

ーーアンドロイドにも心が芽生える可能性があるというメッセージも含まれていますか?

内藤氏:ロボット工学のというか…ロボット倫理に対してのメッセージまでは踏み込んではおりません。あくまで、チーム『HUGっと!プリキュア』を構成する1人が、たまたまそういうアンドロイドだったというだけで、ロボットに関する哲学であるとか、までの議論を広げようという意図はありません。

『HUGっと!プリキュア』 若宮アンリ、愛崎正人について

ーー第19話『ワクワク!憧れのランウェイデビュー!?』についておうかがいします。ドレス姿で現れた若宮アンリが愛崎正人に対して、「僕は自分のしたい格好をする。自分で自分の心に制約をかける。それこそ時間、人生の無駄」、この台詞を受けて正人は口を大きく開いて、目が激しく泳ぎだして、非常にショックを受けたことが分かりましたが、どうしてそれほどのショックを受けたのでしょうか。

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内藤氏:現在では、アンリの考えかたっていうのが認知され始めて、浸透し始めてるというのがありつつではありますが、一方で正人はアンリの対極にいるキャラクターとして描いています。正人の実家は、古くから家柄を大事にする財閥のような、旧態依然とした古い考えかたで、「女の子はこうしなさい、男の子だからこうしなさい」という家です。ずっとそういう価値観で育ってきた正人は、まったく違う価値観、視野を持ったアンリが現れたことで、そこまでの動揺をした。と同時に、その後の話数において、アンリと正人の距離も縮まっていて、それはもう正人がいままで持ってなかった視野をアンリが与えてくれたとか、考え方に共感したというのがあります。

ーーだから19話の最後のファッションショーを見てる正人が、おだやかな顔で。

内藤氏:そうですね。おっしゃるとおりです。

ーーアンリがオシマイダー(クライアス社が召喚・使役する怪物。負の感情から生み出される。)をハグして説得する時、「僕は君のために僕を変えることができない、僕の人生は僕のものだ、僕は僕の心を大切にする、君も君の心をもっと愛して」という台詞がありますけれども、ネガティブになった原因が、自分を愛していないっていうことを意味していますか?

内藤氏:そうですね、むしろ自分がなかったのかなという気はしますね。それまでは植え付けられた価値観で立ち止まって考えることもなかった、考える必要もないと思っていた正人が、アンリと接して動揺する。動揺したってことは、初めてのものに接したと同時に自分でも思い当たるというか、納得できたところはあるのかなという。

ーー正人は「自分のことが嫌いだ」というような台詞は、いままでにありましたか?

内藤氏:いえ、正人が自分を否定するようなことは特になく、多分自分を殺して生きてきたのかなっていう感じではないでしょうかね。

ーーアンリのいう、「君も君の心をもっと愛して」とは、彼が言葉といわずとも、正人がどう感じるかを察していた…?という理解でよろしいでしょうか?

内藤氏:ただ、これはシナリオライターの台詞も妙でもあるので、あまりこれが正解なんだよっていう発信はしたくなくて、ある程度は受け手にゆだねたいなっていうところはあるので、そういうふうに見えるのであれば、それが正解でいいのではないかと思います。

ーー分かりました。正人の名前は『正しい』という字を使っていますが、えみる(正人の妹)を連れて帰ろうとする時のこの台詞、「ヒーローって男のための言葉だよ。女の子は守られる側だよ。言葉は正しく使わなきゃ」、その台詞を考えれば、特に正しい言葉、物事の正しい定義を大切にしているように思えますが、そこは言葉の正しさをここで強調したという意図ありますか?

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内藤氏:それもなかなか深い質問ですけどね(笑)。『正人』というネーミングに関しても、ここで言葉の正しい、正しくないっていう台詞にせよ、さっきお話ししたように、これは正人というキャラクター、背景がガチっとした、旧態依然とした考え方を持った一族に育てられた、育った。

それは決して、その家族のありかたを否定するものではありませんが、例えば、もう昔の倫理観、価値観である家で育った正人君っていうのを端的にというか、少ない見せ場、台詞で印象づけるためのテクニックなのかなと思います、これは。

『正人』っていう名前が表すように、正しい、ちょっと自分の考えてることから外れたものを見た時に、それは違うでしょうって。最初、アンリとすれちがった時もそうなんですけど、それであったり。えみるに対してもそうなんですけど。

ーーそういった諭しかたをするタイプだという一例ということですよね。

内藤氏:このワンシーンでも、多分正人ってそういうキャラなんじゃないかなっていうのは伝わるとは思いますので。

ーー19話のファッションショーのテーマは『女の子もヒーローになれる』でした。これはえみるがプリキュアになることに憧れるようになり、プリキュアになるまでの過程では大切なきっかけという役割を担っているように思いますが、ほかにも、正人のいう「女の子はヒーローにはなれない」という言葉への対抗という意味もあるんですか?

内藤氏:それもありますし、一番は、最初に申し上げました、テーマに関わるところですね。未来は無限大なのでできないことは何もないという。自分で制約をかけることもないし、周りに制約をかけられるものでもない。自分がやりたい、自分がいいと思ったことに進めればいいんじゃないかっていうのは、自己肯定感にもつながるものだと思います。

ーーアンリがオシマイダーに捕まえられた時、「これ、僕、お姫様ポジションになっちゃってない?」という言葉に対して、はなは「いいんだよ、男の子もお姫様になれる」というふうに返してますね。ここでいう、「お姫様」という言葉なんですけど、オシマイダーが消えたあとに落ちるアンリを受け止めて、いわゆるお姫様抱っこされることが象徴するように、ただ単に役割上で守られる側を意味するものでしょうか、それともアンリのようにドレスをまとったりするという意味でしょうか。

内藤氏:あのシチュエーションにおけるこの台詞は、守られてるっていうことですね。あの格好であのシチュエーションというのももちろん合わせ技だとは思います。

ーーアンリがファッションショーに参加している以上、えみると同様に「ヒーローになれる」と信じていると想像もできますが、それはつまり、アンリもプリキュアになれるかもしれないことを暗示させるように思えますが、男のプリキュアの誕生はあり得ますか。

内藤氏:誰でもプリキュアにはなれる、なりたいと思ってたらなれる。それはもちろん、TVを、『HUGっと!プリキュア』を見てくれてる女の子、もしかしたら小さい男の子も見てくれてるかもしれないですけど、その子たちに向けるメッセージでもありますので、誰でもなれるのではないでしょうか。

ーー19話を通して、子どもたちに、男の子もドレスを着て女の子の格好をしたければ、それは自分の心を大切にしている証拠だからそれを受け入れよう、というメッセージが含まれていますか?

内藤氏:そうですね、ドレスっていうのは一例ではあるので、着たければ着ればいいんじゃないのかなとは思いますね。ただ、ことさらジェンダーに振るわけでもなくて、あくまで、自分を大切に、自分をもっと好きでいていい、やりたいことをやりなさい、それによってちょっとつらいようなことももしかしたらあるかもしれないけど、それでも一歩踏み出して、未来、明日に進むっていうのがいかに素晴らしいかっていうのが作品の根底に流れるメッセージ、テーマではあります。

ーー誰でもヒーローになれる、プリキュアになれるということですね。そして、見ている子どもたちの中には、もしかして「本当はドレス着て生きていきたい」という男の子もいて、そういう雰囲気が何か自分の中にある、そういう子にも「自分に正直に生きよう」という、そういうメッセージは、一緒に見ている親にも、子どもにも、与えたらいいなというふうに思いますか。

内藤氏:そうですね。本当にそう思います。

『HUGっと!プリキュア』 クライアス社について

ーーピンポイントの質問ですけど、エンドカードに、プリキュアのエンドカードに「悪役だって定時退社できる」というのがありました。これは、一緒に見ている親へのメッセージでしょうか。例えば、早く子どものもとへ帰って、一緒にもっと時間を過ごしましょうという、そういうような思いがあるでしょうか。

内藤氏:エンドカードに関しては、プロデューサーがチェックはするんですけど、基本的に何か面白おかしく「また来週」みたいのを、演出助手のスタッフがいろいろ工夫して作ってくれてます。どういったメッセージを「定時退社できる」っていうのに込めたかは定かではないのですが、ちょっといまヒヤヒヤしました(笑)。

ーーなるほど(笑)。

内藤氏:そのエンドカードもそうなんですけど、序盤でクライアス社の幹部たちが、直行直帰したり、タクシーの領収書をクライアス社で切ったり、定時退社できる日もあったりで、いい会社なんじゃないかなっていう意見もちらほら聞こえてきているので、そんなにいまの世の中大変なのかなってひょんなところから感じたりもしました(笑)。

ーークライアス社について、実際の会社の、いままでにプリキュアシリーズとしてなかったような要素があるような気がしたんですけれども、『クライアス』には、暗い、ネガティブ、トゲトゲとか、そういった意味がワードに含まれてますか?

内藤氏:そうですね。これは佐藤監督だったと思いますが、作品のテーマが『未来』であったり、前向きな気持ちやポジティブさの持つ力というのもあったので、当然、敵の主張はそれに対立する存在でなくてはなりません。

ネーミングも意図してそういうものにしておこうってなった中で、本当におっしゃるとおり、「暗い」、本当に「ダーク」の「暗い」と、「明日」「トゥモロー」の組み合わせで「クライアス」。「クライシス」みたいな感じでかっこいいんじゃないって、もうすんなり決まりました、クライアス社は。

ーージェロス(クライアス社の社員)は、英語の「ジェラシー」から来ていますか?

内藤氏:ジェロスはですね、『ロスジェネ』なんです。サラリーマン用語みたいなもので固めてますね。

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プリキュアシリーズで描かれる『多様性』について

ーーアンドロイドに対しても、ドレスに着替えた男の子に対しても、みんなをハグして愛で受け入れるという意味で、『HUGっと!プリキュア』は、多様性を祝福するようなアニメというような感じを受けますけれども、それは正しい理解ですか?

内藤氏:正しいです。ここ数年、プリキュアシリーズ、去年の『キラキラ☆プリキュアアラモード』にせよ、その前の『魔法つかいプリキュア!』にせよ、ここ最近のトレンドといったら語弊がありますが、世の中の需要なのかもしれませんが『多様性』というのはちゃんと含まれてますね。

今年は育児や自己肯定だけでなく多様性の要素も取り入れていますが、『魔法つかいプリキュア!』の時もモチーフとして魔法を使ってましたが、一番描きたかったのは『多様性』でした。

去年の『キラキラ☆プリキュアアラモード』は、いろんな個性が際立ったプリキュアが1つの大好きっていう気持ちで結びついてましたし、今年もメインキャラクターやその周りもみんな個性豊かで、それぞれを肯定していくっていう物語になるかなと思います。最近のプリキュアに欠かせなくなってきてるのかなとさえ感じています。子ども向けだからこそ、そこはしっかり伝えなきゃいけないメッセージかなと思います。

ーーいまのお話はすごい深いと感じていまして、責任感という言葉が正しいか分からないですけれども、見てくれてる子どもたちに対して、未来に向けてこうあってほしいというか、何かそういう、社会に「プリキュアなりの何かをできたらいいな」というような気持ちはあるのでしょうか?

内藤氏:ただ、これが正しいんだよっていう答え、モデルケースを見せるのではなくて、あくまで後押しというか、可能性の提示というか、そういうきっかけにしてくれるといいのかなとは思いますね。

ーー分かりました。本日はありがとうございました。

内藤氏:いえいえ。深い、質問が全部深くて。

歴代のプリキュアが大集合!

『HUGっと!プリキュア』は後半に突入し、さらに盛り上がりを見せています。10月14日に放送された第36話『フレフレ!伝説のプリキュア大集合!!』では、歴代のプリキュアが登場し、SNS上では「神回だった」と話題となりました。

また、2018年10月27日には、歴代プリキュアが総出演する劇場版『映画HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』も公開されます。

プリキュアに込められた子どもたちへの、そして一緒に見る親御さんへのメッセージ。そのような視点で見たことがなかったという親御さんは、ぜひ子どもと一緒にご覧ください。親としてもプリキュアに夢中な子どもたちに伝えられることがあるかもしれません。


[文・構成/grape Japan 編集部 – Ben K.]

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