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39歳で妻が亡くなる… 30年間、子供たちの弁当を作り続けた男性【grape Award 2018 入賞作品】

By - grape編集部  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

grapeでは2018年にエッセイコンテスト『grape Award 2018』を開催。『心に響く』をテーマにした多くのエッセイが集まりました。

今回はそんな心に響くエッセイの中から、優秀賞に選ばれた『四人の子供の弁当を作る』をご紹介します。

四人の子供の弁当を作る

長女が12歳、長男が2歳の時に、家内がガンで亡くなった。39歳だった。

私立の中学校に通う長女は、毎日弁当を持って行かねばならない。
葬儀が終わった翌日から、毎日の食事のほかに、娘のための弁当作りが始まった。

冷凍食品などはそれほどの種類がなかった時代で、小さな唐揚げやハンバーグをこしらえて、可愛い弁当箱に詰める。弁当箱の半分をおかずが占め、残りに白いご飯を詰めて、真ん中に梅干しを1つ。

毎日、変化をつけようと、様々な食材を試みた。肉団子や豚の生姜焼き、トンカツの隙間に、ほうれん草のゴマのおひたしや、カボチャの甘煮を詰める。卵焼きやオムレツを作ったり、シメジやエノキをオイスターソースで味付けしたりした。前の晩の、マグロの刺身の残りを醤油で焼いた。アイディアがない時は、少量の豚肉や牛肉を、市販のたれで焼いただけの手抜きの弁当も作った。小さいフライパンが3つも4つも必要だった。

ご飯を半分平らに詰めて、その上に焼きのりを敷き、さらに上半分に白いご飯を詰めたりして、娘の驚く顔を想像したりする余裕もできた。最近のパンダの顔を作ったりするような時代でなくて幸運だった。素朴なご飯とおかずだけで良かった頃である。

娘の弁当作りは高校卒業まで6年続いた。

娘が料理を作るようになった時、キッチンに小さいフライパンが3つも4つもあった。娘は「このフライパン、なんでこんなにたくさんあるの?邪魔だよ」というので、「お前の弁当用のだよ」と言うと、初めて気がついたと、目を丸くして苦笑いしていた。

年が離れて生まれた息子も、10年後には中学生になり再び弁当作りが始まった。男の子だから食欲が旺盛だ。娘の可愛い弁当箱とは似ても似つかない、大きな長方形のアルミの弁当箱である。

おかずの量も娘とは違って、唐揚げも生姜焼きも2倍以上必要である。しかし基本的に中身に変化はない。前の晩に山のように作ったてんぷらを、もう1度甘辛く煮直して再利用する。娘と異なり、息子は中身よりも量である。ウナギ弁当にしたり、かつ丼にしたり、弁当一面が真っ黒ののり弁当も作った、ひどい手抜きであるが。

家内の没後10年ほどして、フランス人と再婚して、間もなく男の子が生まれた。長男とは10歳以上、年が離れている。友人たちには「一人っ子が3人います」などと、冗談を言ったものだ。

長女が結婚し、長男が独立して、家族3人のこじんまりとした生活となった。次男が15歳になって高校に入ると、また弁当が必要になった。

現代は弁当箱も種類が豊富になり、昔のようなアルミの長方形の弁当箱など無くなり、様々なデザインのついた、凝った弁当箱がデパートの食品売り場に並んでいる。

家内の国では弁当という習慣がない。バゲットにハムやチーズをはさんだだけのサンドイッチやリンゴ1個が昼食だなどということもある。息子の弁当を作るのは私の出番だ。

久しぶりにスーパーの冷凍食品の棚を見て驚いた。肉団子やハンバーグなどはもちろんだが、これらに添える、ほうれん草のおひたしや、きんぴらごぼうなどの冷凍食品もある。これなら楽勝だと思ったが、どうも手が伸びない。やはり野菜は手作りがおいしいし、毎週届く無農薬の野菜で作る方が安心だ。晩の食材を多めに作り、翌朝の弁当のおかずにする習慣が再開された。

息子は梅干しが苦手である。暑い夏の弁当は、梅干しが腐敗を防止すると言っても、仕方ないので梅干しなしの弁当である。ハンバーグとシューマイを入れ、アスパラガスや醤油で炒めたマイタケを添え、ご飯の上にのりたまのふりかけをかける。

息子の学校にギリシャの高校の女の子が交換留学でやってきて、我が家に泊まることになった。期間は2ヶ月である。代わりに息子がアテネの高校へ旅立った。息子の部屋が留学生の部屋となり、少しだけ女の子の部屋らしい装飾をした。

食事は基本的に我が家の普通の食事である。何でも食べられると言うが、最初の朝ご飯に、試しにご飯とみそ汁、卵焼き、トーストとハムエッグ、果物などを並べてみたところ、トーストと卵焼きが1番いいと言う。昼は学校の食堂で食べる。夕ご飯も特別なものは作らず、我々と一緒である。その娘が突然、「明日は弁当を作って欲しい」と言い出した。学校の食堂で隣の子が食べている弁当に興味をそそられたらしい。

肉団子に唐揚げ、白ご飯を詰めて、上からふりかけをかける。息子の弁当と同じである。この娘は毎日の弁当をスマホで撮り、SNSに投稿を始めた。彼女の母校であるギリシャの高校では、この弁当の写真が大人気となり、ずいぶんと話題になったそうである。交換留学が終わり、息子を迎えにアテネに行ったとき、息子の歓送会での話題は弁当だった。

いままた息子の弁当を作りながら、およそ30年に及ぶ弁当作りの思い出が蘇ってくる。我が家のキッチンには、いくつかの小さいフライパンがぶら下がっている。

grape Award 2018 優秀賞
タイトル:『四人の子供の弁当を作る』
作者:及川 茂 ペンネーム:ミミのパパ

『心に響く』エッセイコンテスト『grape Award 2018』

grapeでは2017年よりエッセイコンテスト『grape Award』を開催しています。2018年には昨年を大きく超える695本のエッセイが集まりました。

その中から最優秀賞・1作品、タカラレーベン賞・1作品、優秀賞・2作品、佳作・4作品が選ばれました。

入選したその他の作品は、こちらからご確認いただけます。

『grape Award』に関して詳細はこちら。


[構成/grape編集部]

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