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母が亡くなった日のカレー 悲しみを癒し、生きていることを実感するために

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

母が亡くなった日のカレー

三年前、母が亡くなった日。私は大鍋にいっぱいカレーを作りました。母に会いに親戚や友人たちが来る…ということもあったのですが、(こんなときは、食べなくては)という思いに駆られたことを覚えています。そしてなぜカレーだったのか。大量に作りやすかった…そのくらいの理由ですが、タマネギを六個、ざくざくと切りながら涙がとまりませんでした。

こんな時に料理をしている自分が情けないような、滑稽なような。お客様が来るときにはいつも食事のことを気遣っていた母の思いが、自分にも宿っていたのかもしれません。

ホリスティック医学の父と呼ばれ、催眠状態において健康法や病気の治療法などについて述べたエドガー・ケイシーは、「怒っているときや、感情が高ぶっているときに食事をしない」と言いました。副交感神経が優位のリラックスしている状態で食べなければ、食べ物は未消化物となり、体内毒素となる…というのがその理由です。ケイシーによれば、やけ食いも、やけ飲みも体内毒素を生み出す原因になります。

では悲しいときはどうなのでしょう。悲しみに打ちひしがれているときには何も食べる気がしない…食べることなど考えられない。これは、私の感覚なので多くの人に当てはまるかどうかわからないのですが、悲しみの中でふっと落ち着いたとき、「食べる」という意欲が戻ってくるのではないかと思うのです。

食べるという行為は、命を維持することにつながる。その本能のスイッチが入る…そんなイメージがあるのです。悲しくても、落ち込んでもお腹が空く。私が鈍感なのか図太いのか。きっと生命力、生きようとする力が強いのだと思います。ですから、どんなことがあっても、食べられなくなって痩せるという経験をしたことがないのです。

母が成功率二十パーセントと医師から言われた手術を受けたときのこと。中央手術室に入っていく母を見送りながら、父も私も妹たちも泣きました。もしかしたら、これが生きている母を見る最後かもしれない。これから命を賭けて手術を受ける母がかわいそうで、涙が止まりませんでした。

私たちは一旦ロビーに座り、気持ちを落ち着けると、誰からともなく「朝ごはん食べに行こう」ということになりました。カフェでそれぞれに好きなモーニングセットを選び、普通に食べました。母が大手術を受けているというのに。このギャップがなんとも滑稽でした。昼食も食べ、夕食の途中で手術が終わったという知らせがあり、レストランを飛び出して走って病院に戻りました。これも、おかしな光景でした。

(こんなときは、食べなくては)

東日本大震災のとき、私は渋谷にいました。電車は止まり、渋谷のバスターミナルはバスを待つ人々で大変なことになっていると情報がありました。このときも、(食べなくては)という意識が働きました。コンビニでドリアを三つ買い(その夜、必要な分だけ)、カバンに詰めたのを覚えています。

命をつなぐものは何なのか。それは、意識を超えた生存本能なのでしょう。母が亡くなった日のカレーは、悲しみを癒し、生きていることを実感するためのカレーだったのかもしれません。

※記事中の写真はすべてイメージ

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[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
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