「ものには作った人の心がこもっている」遠い日の娘の言葉を思い出す
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
ものには作った人の心がこもっている〜キッチン、ありがとう
「ものには作った人の心がこもっている」
娘が幼稚園の頃、そんな話をしたことがありました。野菜には、「この野菜を食べて元気でいてください」という農家の人たちの心がこもっている。
お家には、「このお家で家族仲良く暮らしてくださいね」という大工さんの心がこもっている。そんな話をしました。
すると娘がテーブルの上にあった小さな栗を手のひらに載せて、
「種には神様の心がこもっているんだね」
としみじみと言いました。ああ、そうだよね。いのちには神様の心がこもっているよね。
娘のこの言葉は、この世界の『本当のこと』を言い表しているようで、いまでも深く心に残っています。
大学に入った頃、父の事業がうまくいかなくなり、家を手放すことになりました。育った家をこのような形で離れるのはとても悲しく、引越しの日は(ありがとう)(ごめんね)と言いながら、何もなくなった一部屋一部屋に別れを告げました。
ほどなくこの家は解体され、新しい家が二軒建つことになるでしょう、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
庭では火が焚かれ、さまざまなものが火に投げ込まれました。父が書斎で使っていた木の椅子を火に投げ込むと、わあっと火の粉と灰が舞い上がりました。
椅子がかわいそうで、涙が止まらなかった。父の無神経さがたまらなく嫌でした。
『もの』に気持ちを入れすぎると、つらいことが多くなります。愛着というのは、時に厄介なことです。
写真や思い出の品、プレゼントされたものなどを整理するには、思いきりと大胆さが必要ですね。片付けをするたびに、大切なものを大切にする、ということを考えさせられます。
さて、ここ最近、仕事を始める前に夕食の下ごしらえや作り置きをせっせとしています。冷蔵庫の中の野菜やらお肉やらを作りきってしまおうと。
数日後からキッチンのリノベーションが始まります。1週間はキッチンを使えなくなるので、冷蔵庫を空にしたく。野菜を切りながら思います。
この家に住んで34年。ずいぶん長い年月が経ちました。毎日夕食を作ったら12,410回。朝食や昼食を作るのも入れたら、ゆうに30,000回はこのキッチンに立って料理していることになります。
心地よく冷たい御影石の天板はどんなふうに解体されるのか。今日も料理をしながらそんなことを思うと、胸が痛くなるのです。
これまでお世話になりました。ありがとう、お疲れさま。家族の健康を守れ、お祝いのご馳走も、友人たちとの楽しい食事も、お正月のおせち料理も。
キッチンは私の人生の一部であることをしみじみと思う。「ものには作った人の心がこもっている」遠い日の娘の言葉を思い出しながら、今日も朝から野菜を刻んでいます。
いのちを紡ぐ言葉たち かけがえのないこの世界で
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※記事中の写真はすべてイメージ
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」