ホタルはなぜ光るようになったのか その起源が明らかに By - 土屋 夏彦 公開:2018-10-25 更新:2018-11-01 ホタル土屋夏彦 Share Post LINE はてな コメント ニッポン放送で「タモリのオールナイトニッポン」などのディレクターなどを務め、現在はBayFMでITコメンテーターとしても出演中の土屋夏彦が、最近のIT・科学・経済のニュースを独自の目線で切り取ります。 ホタルの光、その起源が明らかになる! 『ヘイケボタル』のゲノム(遺伝情報)を解読した結果、ホタルが『光る能力をいつどうやって手に入れたのか』その歴史の詳細が初めて明らかになったと、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市) の重信秀治特任准教授と中部大学の大場裕一准教授、別所学博士らの研究グループが発表しました。 これは米国マサチューセッツ工科大学(MIT)と共同で、米国産ホタルの『フォティヌス・ピラリス』のゲノムも解読し、両者のゲノムを比較することにより、光る能力を手に入れたその詳細が明らかになったそうです。 ゲンジボタルとヘイケボタル ホタルの発光は、体内の『ルシフェリン』と呼ばれる物質と『ルシフェラーゼ』という酵素が反応して光るとされています。今回の遺伝子解析の研究では、この『ルシフェラーゼ』という酵素が、進化の過程でいつの時代にどのようにしてホタルに入り込んだのかが解明しました。 発表によれば『ルシフェラーゼ』という酵素の起源は、光らない生物でも普遍的に持っている『アシルCoA合成酵素』と呼ばれる全く別の物質だったそうで、この遺伝子が進化の過程で何度もコピーミスを繰り返されたことで、その1つが発光活性を持つルシフェラーゼに進化したそうです。 その遺伝子重複を繰り返した形跡が、ヘイケボタルとフォティヌスの両方のゲノムに共通に残っていました。 出典:基礎生物研究所 プレスリリースより さらに『ルシフェラーゼ』は、もう1度遺伝子重複を起こし、一方はホタルの成虫の発光器官で、他方は卵と蛹で発光するように進化したことも分かりました。 この特徴もヘイケボタルとフォティヌスの両方に共通に見られ、これら遺伝子の高度な重複とルシフェラーゼ酵素遺伝子の1回の重複のイベントは、ヘイケボタルとフォティヌスの共通祖先で1億5百万年以上前に起こったと解釈することができるのだそうです。 また研究グループは、ホタルと近縁な発光昆虫『ヒカリコメツキ』のゲノムも解読し、この昆虫のルシフェラーゼもアシルCoA合成酵素を起源としているものの、ホタルとは独立に発光の能力を獲得したことも明らかにしました。 ちなみに昆虫のゲノム解析では、害虫防除のために研究することが多いようです。2010年、『独立行政法人 理化学研究所』らの研究チームは、世界的な農業害虫として知られる『アブラムシ』のゲノム解読に成功したそうです。 発表資料によれば、アブラムシは、植物の師管液を餌とする小型の昆虫で、集団で植物の栄養分を奪うばかりでなく植物ウイルスを媒介するため、世界中の農作物に深刻な被害を与えていることで知られている重要な農業害虫であると同時に、基礎生物学的に重要なモデル生物としても注目されているそうです。 理化学研究所は、昆虫として最多となる約3万5千個の遺伝子をアブラムシゲノムから検出し、グループ分けすることで、それぞれの機能を検出し、そこから効率的でしかも人間にも環境にも優しい化学農薬の開発に取り組むとあります。 そう考えると、今回のホタルのゲノム解析から光る能力のシステムを明らかにしようとする取り組みは、相当ユニークな研究だったのでではないでしょうか。 現在ホタルの発光の仕組みを使った発光技術は、化学発光検出システムや遺伝子発現のモニタリングなど、バイオや医療の世界で広く活用されています。そして解読したゲノム情報は、化学発光検出システムの改良のために役立つとともに遺伝子の解析が加速度的に進むことにも期待ができそうです。 日常のホタルの風景が、別の方向から見ることで、我々の生活になくてはならない医療の進化に拍車をかけることになるのですね。 [文・構成 土屋夏彦] 土屋夏彦 上智大学理工学部電気電子工学科卒業。 1980年ニッポン放送入社。「三宅裕司のヤングパラダイス」「タモリのオールナイトニッポン」などのディレクターを務める傍ら、「十回クイズ」「恐怖のやっちゃん」「究極の選択」などベストセラーも生み出す。2002年ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に転職。コンテンツ担当ジェネラルプロデューサーとして衛星放送 「ソネットチャンネル749」(現アジアドラマチックTV★So-net)で韓国ドラマブームを仕掛け、オンライン育成キャラ「Livly Island」では日本初の女性向けオンラインで100万人突破、2010年以降はエグゼクティブプロデューサー・リサーチャーとして新規事業調査を中心に活動。2015年早期退職を機にフリーランス。記事を寄稿する傍ら、BayFMでITコメンテーターとしても出演中、ラジオに22年、ネットに10年以上、ソーシャルメディア作りに携わるメディアクリエイター。 ダルビッシュ有が日本に帰国 向かった先は…?2024年11月12日、メジャーリーグの『サンディエゴ・パドレス』に所属するダルビッシュ有選手が、自身のブログを更新。日本に一時帰国していたことを明かしました。 俳優・火野正平さんが逝去 腰痛の治療に励むも腰部骨折に火野正平さんが亡くなったことが分かりました。ご冥福をお祈りいたします。 出典 基礎生物研究所 プレスリリース/科学技術振興機構 プレスリリース Share Post LINE はてな コメント
ニッポン放送で「タモリのオールナイトニッポン」などのディレクターなどを務め、現在はBayFMでITコメンテーターとしても出演中の土屋夏彦が、最近のIT・科学・経済のニュースを独自の目線で切り取ります。
ホタルの光、その起源が明らかになる!
『ヘイケボタル』のゲノム(遺伝情報)を解読した結果、ホタルが『光る能力をいつどうやって手に入れたのか』その歴史の詳細が初めて明らかになったと、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市) の重信秀治特任准教授と中部大学の大場裕一准教授、別所学博士らの研究グループが発表しました。
これは米国マサチューセッツ工科大学(MIT)と共同で、米国産ホタルの『フォティヌス・ピラリス』のゲノムも解読し、両者のゲノムを比較することにより、光る能力を手に入れたその詳細が明らかになったそうです。
ゲンジボタルとヘイケボタル
ホタルの発光は、体内の『ルシフェリン』と呼ばれる物質と『ルシフェラーゼ』という酵素が反応して光るとされています。今回の遺伝子解析の研究では、この『ルシフェラーゼ』という酵素が、進化の過程でいつの時代にどのようにしてホタルに入り込んだのかが解明しました。
発表によれば『ルシフェラーゼ』という酵素の起源は、光らない生物でも普遍的に持っている『アシルCoA合成酵素』と呼ばれる全く別の物質だったそうで、この遺伝子が進化の過程で何度もコピーミスを繰り返されたことで、その1つが発光活性を持つルシフェラーゼに進化したそうです。
その遺伝子重複を繰り返した形跡が、ヘイケボタルとフォティヌスの両方のゲノムに共通に残っていました。
出典:基礎生物研究所 プレスリリースより
さらに『ルシフェラーゼ』は、もう1度遺伝子重複を起こし、一方はホタルの成虫の発光器官で、他方は卵と蛹で発光するように進化したことも分かりました。
この特徴もヘイケボタルとフォティヌスの両方に共通に見られ、これら遺伝子の高度な重複とルシフェラーゼ酵素遺伝子の1回の重複のイベントは、ヘイケボタルとフォティヌスの共通祖先で1億5百万年以上前に起こったと解釈することができるのだそうです。
また研究グループは、ホタルと近縁な発光昆虫『ヒカリコメツキ』のゲノムも解読し、この昆虫のルシフェラーゼもアシルCoA合成酵素を起源としているものの、ホタルとは独立に発光の能力を獲得したことも明らかにしました。
ちなみに昆虫のゲノム解析では、害虫防除のために研究することが多いようです。2010年、『独立行政法人 理化学研究所』らの研究チームは、世界的な農業害虫として知られる『アブラムシ』のゲノム解読に成功したそうです。
発表資料によれば、アブラムシは、植物の師管液を餌とする小型の昆虫で、集団で植物の栄養分を奪うばかりでなく植物ウイルスを媒介するため、世界中の農作物に深刻な被害を与えていることで知られている重要な農業害虫であると同時に、基礎生物学的に重要なモデル生物としても注目されているそうです。
理化学研究所は、昆虫として最多となる約3万5千個の遺伝子をアブラムシゲノムから検出し、グループ分けすることで、それぞれの機能を検出し、そこから効率的でしかも人間にも環境にも優しい化学農薬の開発に取り組むとあります。
そう考えると、今回のホタルのゲノム解析から光る能力のシステムを明らかにしようとする取り組みは、相当ユニークな研究だったのでではないでしょうか。
現在ホタルの発光の仕組みを使った発光技術は、化学発光検出システムや遺伝子発現のモニタリングなど、バイオや医療の世界で広く活用されています。そして解読したゲノム情報は、化学発光検出システムの改良のために役立つとともに遺伝子の解析が加速度的に進むことにも期待ができそうです。
日常のホタルの風景が、別の方向から見ることで、我々の生活になくてはならない医療の進化に拍車をかけることになるのですね。
[文・構成 土屋夏彦]
土屋夏彦
上智大学理工学部電気電子工学科卒業。 1980年ニッポン放送入社。「三宅裕司のヤングパラダイス」「タモリのオールナイトニッポン」などのディレクターを務める傍ら、「十回クイズ」「恐怖のやっちゃん」「究極の選択」などベストセラーも生み出す。2002年ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に転職。コンテンツ担当ジェネラルプロデューサーとして衛星放送 「ソネットチャンネル749」(現アジアドラマチックTV★So-net)で韓国ドラマブームを仕掛け、オンライン育成キャラ「Livly Island」では日本初の女性向けオンラインで100万人突破、2010年以降はエグゼクティブプロデューサー・リサーチャーとして新規事業調査を中心に活動。2015年早期退職を機にフリーランス。記事を寄稿する傍ら、BayFMでITコメンテーターとしても出演中、ラジオに22年、ネットに10年以上、ソーシャルメディア作りに携わるメディアクリエイター。