ドーナツ店に来た、もじもじする男の子 店員が声をかけてみると…?
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買った花束を店に置いていった女性 その後の展開に「鳥肌が立った」買った花束を店に置いていった女性 その後の展開に「鳥肌が立った」
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。
『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる
今回は、応募作品の中から『泣き虫弟とショーケースの向こう側』をご紹介します。
私には5歳年下の弟がいる。
小さい頃は泣き虫で、朝起きては「眠い」と泣き、嫌いな野菜が「食べられない」と泣き、大嫌いなスイミングスクールに「行きたくない」と泣いた。
泣いている傍から「男のくせに、すぐ泣く!」と、父親に叱られてはまた泣き、そんなこんなで1日中泣いていたから「こんな状態で大丈夫なのかしら?」と母の頭を悩ませていた。
その日は私が地元の公立高校に合格した日だった。夕方、弟はいつものように半べそをかきながら大嫌いなスイミングスクールに出かけて行った。
夕食前に濡れた髪にプールバックを抱えて帰ってきた弟は「はい、おねえちゃん。高校合格おめでとう」と、小さな紙袋を私に差し出した。スイミングスクールの横にあるドーナツ屋さんの紙袋だ。
「わあ!ありがとう!」と、お礼を言って受け取ると、中にはチョコレートのかかったドーナツがひとつ。
「これ、ひとりでお店に行って買ったの?」「そうだよ」「すごいじゃん」「へへへ」「どれどれ?」と母も私達の会話に興味津々で加わる。
デパ地下の総菜売り場のようにドーナツが並んだショーケースの前にはたくさんのお客さんがいたようだ。
もじもじしていた弟に、「どれにしますか?」と、声をかけてくれた若い女性の店員さんに「これひとつください」と、弟がドーナツを指さしながら告げると、お姉さんはショーケースの向こう側から、食べやすいようにふたつ折りにした油紙に挟んだドーナツを「はい、どうぞ」と、体を乗り出し、弟に持たせてくれようとしたそうだ。
濡れた髪にプールバックを持った男の子がたったひとつドーナツを注文すれば、お腹が減って、その場で食べるのだろうと思うのも当然だ。手を汚さずに上手に食べられるように持たせてくれようとしたのだろう。
でも、ドーナツは私へのお祝い。このまま持ち帰る訳にはいかない。弟が慌てて手をひっこめ、「袋に入れてください」とお願いすると、お姉さんは笑いながら「あらあら、ごめんなさいね」と言って紙袋にいれて持たせてくれたというわけだ。
優しい店員さんに見送られながら、ドーナツは無事私の元へ届いた。泣き虫弟のはじめてのおつかい話がうれしくて、私と母は何度も何度も同じ話を弟から聞きたがった。
母は仕事から帰宅した父にもうれしそうにこの話をした。父も「そうかそうか」と母の話を聞き、「袋に入れてください」と弟がお願いしたくだりでは、手を叩いて喜んだ。弟の泣き虫はその後も暫く続いたけれど、母がその事で頭を悩ませることはなくなった。
弟の成長を優しく見守ってくれた店員さんの話は30年以上たった今でもまだ我が家の話題に上る。そして、弟は同じように泣き虫な男の子の父親である。
grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響いた接客エッセイ』
タイトル:『泣き虫弟とショーケースの向こう側』
作者名:森平 久美子
エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!
2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。
さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。
心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!
『grape Award 2020』詳細はこちら
[構成/grape編集部]