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担任が自己紹介で発した言葉に、生徒あ然… しかしその後、言葉の意味を理解した

By - grape編集部  公開:  更新:

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※写真はイメージ

2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。

『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。

今回は、応募作品の中から『私は、皆さんを愛します。』をご紹介します。

中学2年の4月、担任発表をするために学年集会が開かれ、武道館に集められた。クラス替えをしたばかりで、周りはいつも以上に賑やかだ。

学年主任の先生が私のクラスの担任を発表する。呼ばれて前に出てきたのは、母と同じぐらいの年齢にみえる、ちょっと太った女の先生だった。

初対面の先生が話す挨拶は、だいたい同じに聞こえる。今までの学生生活の中で記憶に残っている先生の挨拶なんて無い。

そんなことを思っていると、先生は自分の名前を言った後で、私のクラスが座っている方に体を向き直し、話を続けた。

「私は、皆さんを愛します。」

私の頭が一瞬フリーズした。今まで愛しますなんて言われたことがない。

況して、見ず知らずの人に愛しますと言われても、反抗期真っ盛りの私には重すぎる。もうクラス替えはなく、基本的に担任は同じ人になるはずだ。つまり、この人と2年間過ごすことになる。

正直気が重い。私たちの出会いは良いとは言えないものだった。

新しいクラスにも慣れた6月頃、クラス全員が、別の先生の授業中に理不尽な理由で怒られてしまった。はっきり言ってその先生の逆ギレだ。

モヤモヤした気持ちを抱えたまま授業を終えた。休み時間になったはずなのに、クラスはどこか静かなように感じる。

すると、先生が急ぎ足で教室にやって来た。どうやら授業での話を聞いたらしく、私たちの話を聞きたいと言ってくれた。

しかし、その時の私は、先生に話したところで意味がないと思っていた。多くの場合、「先生」は生徒が何を言っても「でもね」と言って先生側の肩を持つ。

話を聞いた先生は、「分かった」とだけ言って教室を飛び出して行った。そして戻ってくると、「話、つけといたから」と私たちに微笑んだ。

先生は、話を聞いた上で、味方になってくれたのだ。反抗期だった私でも「この人は違う」と心の底から思えた。

それから先生と仲良くなるのに、多くの時間は必要なかった。仲がいいとは言っても、甘えるだけの関係ではない。休み時間は気にしない言葉遣いも、授業中は切り替えて話す。お互いにリスペクトがあってこそのいい関係だ。

私たちは本当に家族のようだった。先生にだけは、今誰のことが好きだとか、親と喧嘩して家に帰りたくないだとか、あの先生は苦手だとか、とにかく何でも話した。

2年間で「自分の時間を割いて、友だちに協力すること」、「友だちの悩みや痛みを受け止めること」の大切さを教わった。

普段の授業中だけでなく、受験期の面接練習なども得意な人を中心にクラス全員で乗り切った。仲間の相談を聞き、一緒に考え、何も出来ない無力さに涙したこともある。今思い出してみても本当に濃い2年間だった。

卒業する時、私たちのことを「すばらしい人間」だと言ってくれた。先生はいつも味方でいてくれて、話を聞いてくれて、たくさんの愛をくれた。

あの時、重いと感じていた愛をいつしか受け入れ、私は先生の想いに包まれて、幸せな時間を過ごせていた。

中学を卒業して5年が経つ。今でもクラスメイトと先生に会いに行って、お菓子を食べながら恋愛相談や将来の話をする。

私は、離れていてもこの言葉を思い出す。そして、いつか誰かに言えるようになりたい。

「私は、皆さんを愛します。」

grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『私は、皆さんを愛します。』
作者名:佐藤 理子

エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!

2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。

さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。

心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!


[構成/grape編集部]

不在票

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