「とんでもございません」は誤り 伝えたいことを明確に伝えるには
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さん。先生の日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…様々な『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
『察しの文化』が育む美しい想像力
『言葉』を習得するのにもっとも重要な言語技術。言語技術とは、文法や語彙、『話す,聞く,書く,読む』という基本的な『技術』のこと。さらに、伝えたいことを伝わる言葉で、正しく、適切に伝えるための力をいいます。それは単に言葉を話せるということだけではありません。伝えたいことを明確に伝えるためには、言葉の使いかた、意味を正しく学ぶことが必要になります。日本語が乱れているといわれて久しいですが、それ以前に使い方や意味を間違って覚えている言葉もたくさんあります。
例えば「情けは人のためならず」という言葉があります。「情けをかけることはその人のためにならない」という意味に使いがちですが、「情けをかければ、それがめぐりめぐって自分のところに戻ってくる」という意味です。また、最近文頭で「なので〜」という使いかたをしている文章が多くありますが、これも間違いです。「なので」は文の中で「〜なので」と使われます。「とんでもございません」という言葉もよく使われますが、「とんでもない」というのが1つの言葉なので、「とんでもないことでございます」が正しい使いかたです。このように言葉や使いかたを正しく理解すること、これが言語技術です。
日本語を学ぶ時に、もうひとつ必要になるのが「察しの文化」と呼ばれるものです。相手の気持ち、伝えたいことを察すること。対立することを避けながら、お互いに折り合える合意点を探り、穏便にことを進めていくのが日本式のコミュニケーションの特徴です。
「和(やわらぎ)を以て尊しと為す」飛鳥時代、十七条の憲法に掲げられたこの条文は、日本人の精神性につながるものです。和(やわらぎ)を大切にする文化。自己主張を抑え、相手の立場や考えをよく聞きつつ、相手の表情や言葉のトーン、表現の仕方によって真意をくみ取る…。それが察しの文化です。決して優柔不断であるとか、日和見的な態度ではないのです。もちろん、空気の読めない人、思い込みが激しい人がいますし、察しが悪い人もいます。
この察しの文化は、島国である日本が異民族によって支配された経験がないことに由来するといわれています。同じ質を持つ同質性が高いために、言葉によるコミュニケーションよりも相手の表情や態度などで察して理解し合うという文化が長く受け継がれてきたのです。これは、かなり高度なコミュニケーションだと思います。
ただ、「検討します」「なかなか難しい」などと、イエス、ノーをはっきりいわないやりかたは、ビジネスや国際社会の中ではトラブルになりかねません。また、察することを相手に求めるような甘えの態度は、本来の『察しの文化』とは違うように思います。『察する』場をきちんと行動することによって、このよさを生かすことができるのです。
『察しの文化』は、言語技術のように教科書で学べるものではありません。感性、心、環境、経験によって培われる美しい想像力なのです。
作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」