単なる伝達手段? 人を励ますことも、傷つけることもできる『言葉』の正しい扱いかた
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
言葉はギフト、手渡すように。
「言葉は伝達手段なのだから、そんなに言葉に神経質になることはないですよ」
仕事関係の人から、こう言われたことがありました。いえ、私は言葉を生業としているので、言葉と共に生きているのです…と説明しようと思ったのですが、やめました。真意は伝わらないだろうと思ったからです。
確かに伝達手段、しかし、ただ用件が伝わればいいということではないでしょう。人に頼み事をするのに「お願いできますか?」と言うのと、「やっとけよ」と言うのとでは、まったく違います。ものには言い方があり、ふさわしい言葉がある。言葉をどう扱うかというところに、その人が表れるのです。
言葉はブランケットにもなるし、ナイフにもなります。ひとことで人を励ますことも、傷つけることもできます。もしかしたら、ひとことから戦争が始まるかもしれない。
放ったひとことが物議を醸し出しワイドショーを賑わしたり、「干されてしまった」芸能人、辞任に追い込まれた政治家など、(またか)と思うほど数多くいます。自分の発する言葉が、相手にどのように伝わるか。想像し、熟考する前に口から出てしまったのでしょう。言葉は、伝えたいと思うことがあって初めて言葉になります。ですから、「そんなつもりではなかった」と後から言っても、心に思っていないことは言葉には出ません。放ってしまった言葉は取り戻せないのです。
ものには言い方がある。小さい頃に、母が繰り返しこう言っていたことを思い出します。例えば、相手の服を褒めるときに、「その服とても素敵ね」と言えば、服そのものを褒めたことになります。しかし、「その服、あなたにとても似合ってる」と言えば、相手を褒めたことになります。相手のことを思って言葉を伝えることは、愛をこめることになると、私は考えます。言葉そのものにも、その心が宿っている。そこに少し意識を向けるだけで、その人の言葉は違ってきます。
美しい言葉には、美しい心が宿っています。美しさというのは、見た目のことだけではありません。美辞麗句でもありません。たとえ乱暴な言い方であったとしても、そこにこめられた美しい思いがあれば、心打つものだと思います。
美しい言葉を使いましょう、正しい言葉を使いましょう、と言われると身構えてしまうかもしれません。もちろん、言葉が美しいことはすばらしい。大切なことは、形ではなくそこに温度があるかどうか、ということです。
言葉はギフト。手渡すように伝えていく。人肌感のある言葉が、まろやかな人間関係を創っていく。そしてそれは、社会全体に広がっていくと、信じています。
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」