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電車で足を踏まれ、怒りの収まらない青年 すると、座っていたご婦人が青年に意外なひと言を

By - 押阪 忍  公開:  更新:

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※ 写真はイメージ

こんにちは、フリーアナウンサーの押阪忍です。

ご縁を頂きまして、『美しいことば』『残しておきたい日本語』をテーマに、連載をしております。宜しければ、シニアアナウンサーの『独り言』にお付き合いください。

「我慢って勇気がいりますものね…」
アナウンサー押阪忍の『美しいことば』

久しぶりに、ほぼ通勤時間帯の電車に乗りました。幸い座れました。井の頭線の乗換駅の明大前に停車すると、かなりの人がホームへ出始めました。

電車のドア近くに座っていた 茶髪で耳にピアスとイヤホン、そしてスマホに触れていた若者が、ハッと気づいて慌てて立ち上り、前に立っていた4~5人を押しのけて ドア前に突進しました。

「イテッ! イテテテ!」

悲鳴にも似た声が聞こえました。どうやらその茶髪の若者に、足を踏まれたらしい27~8才の青年が 顔を歪めています。足を踏んだ若者は振り向きもせず、無言のまま、ホームへ飛び出して行きました。

「チキショウ…あの野郎…」

ドアが閉まり電車が動き出した後も、その青年の怒りは収まらないようで、ホームの方をにらみつけています。

と…その青年の前に座っていた 70代前後の銀髪の上品なご婦人が穏やかに声をかけました。

ご婦人:
「足が痛かったら、ここにお座りになる?」

青年:
「え?いえ…大丈夫です」

ご婦人:
「そうですか…気の毒だったわねぇ、でも彼も悪気があった訳でもないでしょうから、我慢なさいね…」

青年:
「え?我慢ですか?」

ご婦人:
「そう、我慢。我慢って勇気がいりますものね…」

青年:
「え?勇気ですか…」

ご婦人:
「そう…」

青年:
「はあ…」

青年は暫くは合点のいかない顔をしていましたが、ご婦人のそのことばの意味を理解したらしく、先程の怒りの表情は消えていきました。

下北沢でその銀髪のご婦人は降りられましが、青年はニコッと笑ってそのご婦人に 会釈を送ったのです。ご婦人もその青年にホームから笑顔を返されていました。

※ 写真はイメージ

さわやかで温もりのある 朝の車内の光景でした。

<2018年9月>

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フリーアナウンサー 押阪 忍

1958年に現テレビ朝日へ第一期生として入社。東京オリンピックでは、金メダルの女子バレーボール、東洋の魔女の実況を担当。1965年には民放TV初のフリーアナウンサーとなる。以降TVやラジオで活躍し、皇太子殿下のご成婚祝賀式典、東京都庁落成式典等の総合司会も行う。2018年現在、アナウンサー生活60年。
日本に数多くある美しい言葉。それを若者に伝え、しっかりとした『ことば』を使える若者を育てていきたいと思っています。

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