気仙沼の民宿『つなかん』 震災から家を守った、一人の女性
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震災がもたらした巡り合い
東日本大震災は、歴史的な大災害であった。多くの人は、被害に合った人々に救いの手を差し伸べるべく東北へ向かった。
そのような中、2011年8月、学生のボランティアが一代さんのもとを訪ねた。
「ここに泊めてください。」
屋根と柱しか残っていないと一代さんが説明しても、「屋根があるだけでもありがたい」と言われたそうだ。
電気もなくなり暗くなった菅野家。しかし、そこに段々と灯りが灯された。そして受け入れた学生ボランティアの数は1000人を超えていた。
「自分はひとりではない―。」 いつしか一代さんは『人と人のつながり』に生きがいを見出したのだという。
学生ボランティアが残した寄せ書き
己の運命を愛せよ
多くの学生を屋根と柱だけの自宅に招き入れ続けた一代さん。徐々に活気を取り戻す自宅を目の当たりにし、「町に人を呼べて、皆が『ただいま』と言える場所を作りたい」と思うようになった。その後、クラウドファンディングなどを通して資金を調達。
一度は壊そうと考えた自宅は、2013年10月に民宿『つなかん』として息を吹き返した。そして菅野一代さんは、いち民宿の女将となった。
名前の由来は、地名の『鮪立』から鮪をとり、それを英語に訳した『ツナ』と、菅野さんの『かん』。復興を支えてくれたボランティアの人たちが提案した名前だそうだ。
『つなかん』では身がプリプリした粒の大きな牡蠣など、地域でとれた季節の産物を使った料理を用意してくれる。
3・11という衝撃的な大災害の被害者だというのに、grape取材班の倍以上に大声で笑う女将。その元気の秘密は、舅のある言葉だと言う。
「己の運命を愛せよ」
それは、嫁いだ当初から言われてきたこと。大震災を経て多くを失ったが、それがきっかけで多くの人と巡り合うことができた。
「運命を愛することは難しいかもしれない。でも受け入れる。」 これは被災したひとりの女性の答えだった。
全壊をまぬがれ、今では気仙沼の名所となった『つなかん』。それを創り、支え続けているのは他でもない女将なのだ。民宿を後にする頃には「いってきます」と、実家を去るような気持ちに駆られた。
思い返せば、受話器を通して声を聞いた時から、『つなかん』の暖かさに包まれていたのかもしれない。