【私は文房具マニア】万年筆と、書くことの快感~文具自分紀行
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「書く」ために「書く」ことの精神的な快感
さて、こうした万年筆の操作感、書き心地の虜になると、人によっては「万年筆以外の筆記具では何も書きたくない」という極端な精神状態を経たりして、文字を書くことによって生じる快感をただ味わいたいがために、「書く」ために「書く」という段階に入っていくことになる。即ち、行為自体が目的化された状態である。
だが、「書く」ためには何かしらの内容、文章が必要だ。本や新聞の抜き書きをしたりする人もいるが、私のオススメは「モーニングページ」である。モーニングページは、『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』(ジュリア・キャメロン著)という本の中で紹介されている、「ただ手を動かし、心に浮かんでくるものをそのまま書きとめる」というワークである(※)。モーニングページという言葉は知らなかった、という方でも、これに近いことを自然にやっている場合も少なくないのではないだろうか。
※本の中では「朝」「15分」「3ページ」で書くことが奨励されているが、原著が英語であることを鑑みて、個人的には日本語であれば分量は「大学ノート1ページ」程度が妥当かと思う。言語上の特性として、英語と日本語なら日本語の方が少ない文字数で同じ内容を表現できるからだ。
実際に取り組んでみるとわかるが、特にまとまった意味のある文章を目的とせず、ただただ浮かんでくる言葉を紙に書き写すという行為には、ある種のカタルシスが伴う。それは悩みや怒りを人にぶちまける快楽に近いものだが、誰にも迷惑をかけないという安心感から、より自分に正直になれる。文字となって書かれた思考は輪郭を持ち、自分から切り離され、客観性を獲得する。モヤモヤとしていた頭の中が、少しずつクリアになっていく。こうして「書く」ことは、精神を浄化する作用、快感をもたらすのである。
このとき、私たちの「思考」とそれを展開される「紙」は、ペン先の小さな一点でつながっている。ここに一切のわだかまりがない、即ち肉体的に快感を伴う状態であるということは、精神的な作用に物理的なジャマが入らないということであり、些末なようでいて大変重要なことではないか、と思うのだ。
カレーを食べるためにお米を食べるのか、お米を食べるためにカレーを食べるのか
こうして、万年筆によってもたらされる肉体と精神の快感は両輪となって、相互に弾みをつけながら「書く」行為を加速していく。カレーだけ、お米だけではそんなに食べられないが、カレーライスになるといくらでも食べられるのと同じである。
そう考えてみれば、「快感」も文房具にとっては一種の「機能」とよべるのかもしれない。最初は肉体的な快感を得ることを目的に「書く」という行為がはじまるが、「書く」うちに悩みを客観視できるようになり、考えが整理される。結果としてストレスが解消し、余計なことにとらわれていた脳のリソースを、本来やるべき仕事に割り当てられるようになるのだから。
なので、仕事をするために文房具を使うのが本来のあり方だ!というのはたしかに正論ではあるけれど、文房具を使う快感にずぶずぶと溺れ、結果的に仕事をしているならいいじゃないの、と自分に言い聞かせながら、文房具を使うために仕事をしているような状態も、たまには悪くないかな、と思うのである。
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