日本のしきたりはオヤジギャグ? あるテレビ出演者のコメントに思う
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吉元由美の『ひと・もの・こと』
作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。
たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。
心に響く豊かさを生きる
私たちはどれだけ日本について知っているでしょうか。年の終わり、そしてお正月は日本の伝統、しきたりを味わう時期でもあります。年末、あるワイドショーで、お正月飾りを飾る時期についての解説がありました。お飾りは28日までに。29日は「二重苦」…という説明があった時、コメンテーターの一人が、
「親父ギャグですね」
と発言しました。そこでみんなで大笑い。しきたりは親父ギャグになってしまいました。
29日に門松を立てるのは「苦立て」、「苦」を避けるために、28日までにしめ飾りや鏡餅をお供えする謂れです。古の日本人は言葉には霊力が宿ると考えました。日本語、大和言葉の成り立ちを辿っていくと、そこに先人たちの心がこもっていることに気付きます。
例えば、「稲、イネ」はなぜ「イネ」と名付けられたか。農耕民族である日本人にとってお米はまさに「命の根」。そこで「イネ」という言葉になったのです。では、「稲妻」はなぜ「稲妻」と名付けられたのか。
雷が多かった年は豊作になると言われています。そこで稲を実らせる、稲と雷をつなぐということから「稲妻」と名付けられたのです。実際、雷による放電現象と雨により、空気中の窒素が地中に固着され肥料となったことが、後年の研究で証明されました。古の先人たちは、こうした自然科学の達人であり、素敵な言葉を生み出していったのです。
日本の多くの行事は農耕儀礼です。お花見も、桜の木に宿る神様に、田植えをする前にお供え物をし、そのお下がりをいただく、という農耕儀礼から始まったものです。
日本人がお正月を大切にするのは、新しい年が始まったというだけのことではありません。一年を司る歳神様をお迎えする、新年を迎えることは神事だったのです。ですからお飾りのひとつひとつに意味があり、おせち料理にも意味があります。黒豆には、まめまめしく働けるようにという意味があり、数の子は子宝に恵まれるように。栗きんとんは黄色を黄金の財宝に見立てています。栗は勝栗といって、縁起の良い食べ物とされてきました。
このようなお正月の謂れは学校ではなかなか教えてくれません。家庭で、お正月の支度をしながら、新年の祝膳を囲みながら親から子へ伝えられるものなのです。伝統としきたり、習慣を古臭いとするのか、引き継いでいくのか。いま、まさにその分岐点にいるような気がします。伝統やしきたり、そして言葉は長い年月に育まれた文化。感謝と祈りによって育まれてきたのです。それを「親父ギャグ」と笑えるものなのでしょうか。
新しい年を迎え、気持ちも新たになる時。今一度、日本のこうした文化について学んでみてください。先人たちの知恵と創造性が、今の日本の文化と国民性の底流に流れている。その流れを途絶えさせてはならないのです。
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作詞家・吉元由美の連載『ひと・もの・こと』バックナンバー
[文・構成/吉元由美]
吉元由美
作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」