インクを一切使わずに描かれた、たった1mmの葛飾北斎『神奈川沖浪裏』に驚愕
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ニッポン放送で「タモリのオールナイトニッポン」などのディレクターなどを務め、現在はBayFMでITコメンテーターとしても出演中の土屋夏彦が、最近のIT・科学・経済のニュースを独自の目線で切り取ります。
動物の発色構造でインクを使わずにカラー印刷が可能になった!?
京都大学の高等研究院物質–細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)のシバニア・イーサン教授らの研究グループは、6月20日、大きさ1mm角という世界最小サイズのキャンバス上に、葛飾北斎の富嶽三十六景のひとつ『神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)』をインクを一切使わずに、フルカラーで製作することに成功し、その成果をイギリスの国際学術誌『ネイチャー(Nature)』に掲載しました。
これは、チョウやクジャクの羽などが光を反射して鮮やかな色彩を放つ自然の仕組みを解析して実現したもので、絵の具などで色を表現する『色素色』に対して、生物の表面などがミクロな多層構造になっていることで特定の色の光を反射して発色する『構造色』と呼ばれる技術を人工的に再現し、描いた作品だそうです。
この技術によって、様々なフレキシブルで透明な素材上に画像解像度数14000dpiまでの大規模なカラー印刷をインク無しで行うことを可能にしました。つまりこの素材を使うことで極小でも色鮮やかな絵画などを再現できるようになりました。
「これは世界最古の絵といわれるインドネシア・東カリマンタン州のルバン・ジェリジ・サレー洞窟に描かれた雄牛の壁画の時代から『物質』そのものが形を記し『色彩』を放つということにもつながるものである」とイーサン教授は説明しています。
ところで、世界で一番小さい印刷物といえば、ギネスブックにも記録されている世界で一番小さい本『四季の草花』というものがあります。これは2013年に凸版印刷株式会社が自身の証券印刷やエレクトロニクス製品の製造で培った超微細印刷の技術を応用して0.75ミリ角のマイクロブックの製作に成功したものです。
マイクロブック『四季の草花』と縫針の比較写真
Copyright 2013 Printing Museum,Tokyo, TOPPAN PRINTING CO., LTD.
凸版印刷は1964年から極小の『マイクロブック』を作るプロジェクトを開始。以来、どこまで小さな本を作れるのかを追求してきたそうです。1981年には世界最小の本として1.4ミリ角のマイクロブック『主の祈り』を製作、2000年にはより小さい0.95ミリ角のマイクロブック『十二支』の製作に成功し、ここで初めてギネスブックに掲載されました。
2013年には、それをさらに凌ぐ0.75ミリ角のマイクロブックの製作に成功し、それ以来この記録は破られていないようです。
『四季の草花』では、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットの4種類の文字を用い、0.75ミリ角の本に四季の草花のイラストと名前がはっきりと印刷されています。全22ページのうち、4ページには、絵柄の中に線幅0.01ミリの極小文字を隠し文字として印刷することも実現させています。
しかし、マイクロブックの製作はあくまで通常の印刷技術の延長線にある技術で、今回の技術を用いた発色素材での描画については、従来の印刷技術とはまったく別物。
今回の技術を応用すれば、インクを使わずに高画質のカラー印刷が可能になったり、模造しにくい紙幣の印刷、医療技術への応用などさまざまな分野での活用が期待できるそうです。
いつか、色の粉を用いて絵や文字を描く『色素色』による印刷技術から、素材そのものの構造を変化させることで発色させる『構造色』による印刷技術に変わる日もあるのでしょうか?
[文・構成/土屋夏彦]
土屋夏彦
上智大学理工学部電気電子工学科卒業。 1980年ニッポン放送入社。「三宅裕司のヤングパラダイス」「タモリのオールナイトニッポン」などのディレクターを務める傍ら、「十回クイズ」「恐怖のやっちゃん」「究極の選択」などベストセラーも生み出す。2002年ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に転職。コンテンツ担当ジェネラルプロデューサーとして衛星放送 「ソネットチャンネル749」(現アジアドラマチックTV★So-net)で韓国ドラマブームを仕掛け、オンライン育成キャラ「Livly Island」では日本初の女性向けオンラインで100万人突破、2010年以降はエグゼクティブプロデューサー・リサーチャーとして新規事業調査を中心に活動。2015年早期退職を機にフリーランス。記事を寄稿する傍ら、BayFMでITコメンテーターとしても出演中、ラジオに22年、ネットに10年以上、ソーシャルメディア作りに携わるメディアクリエイター。