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「香りにはドラマがある」成人式を迎えた娘 手渡した小瓶に想いを込めて

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さん。先生の日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…様々な『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

ふたつの香りをつなぐ物語

香りにはドラマがある。記憶を呼び起こす香りがあります。一人暮らしを始めたころ、『月待ち雲』というお香に出合いました。ほのかに柔らかい白檀(びゃくだん)の香りがとても優雅で、出かける前には必ず『月待ち雲』を焚いて出かけました。すると、帰った時に残り香が迎えてくれ、(ああ、我が家に帰ってきた)という安堵感に包まれたものでした。誰も迎えてくれる人のいない一人暮らしの部屋には、そんなささやかな習慣が必要だったのです。

京都のお香屋さんから取り寄せていた『月待ち雲』。30年近く前のことですから、いまのようにインターネットではなく電話で注文します。数か月に一度耳にする京都弁もまた、楽しみでした。

一度、京都のお店を訪ねたことがありました。骨董屋が並ぶ通りを歩いていくと、ふっとお香の香りがしてきました。その香りを辿るように歩いていくと、お香屋さんの看板が見え、その引き戸は10cm四方ほど四角く穴が切り取られていました。香りはそこから流れてきたのです。

何とも奥ゆかしい演出。五感の中でも嗅覚の鋭い人の感性は高いそうです。自ら主張をしなくても、そこにあることを知らしめることができる。この『香り窓』という美意識に、いたく感動したのです。

そのころに出合った、もう1つの香りがあります。パリのホテルのアメニティの中にあったアニック・グタールの石鹸、『オーダドリアン』。夕方の4時には暗くなってしまう12月のパリ。一人旅は時に孤独が道連れになります。それだけ心に浮かぶものは多いのですが。

そんな時、『オーダドリアン』のシトラス系の香りは元気をくれたのです。アニック・グタールのブティックで石鹸とオーデコロンを買い、大切に使いました。気分を替えたい時、落ち込んだ時、『オーダドリアン』をつけるとリセット、リフレッシュできるのです。香りそのもののエネルギーもあるのですが、創造的な気持ちがかき立てられるパリを思い出すのです。

このフレグランスの創り手であるアニック・グタールはもともとピアニストであり、モデルでもありました。シングルマザーとなってから7年間調香の勉強をし、1981年にブランドを立ち上げました。資料によると「アニックが作り出すフレグランスは、幸福な瞬間や秘めた思い、人生の岐路のできごとなどの感情を表現して生まれたもの」とあります。自身がアーティストだったからか、湧き上る感情をフレグランスに表現するのが得意だったのでしょう。

アニック・グタールの香りに魅かれるのは、そんな美しい女性の人生のエッセンスがフレグランスとなった…というドラマがあるからなのかもしれません。

今年、娘は20歳、成人式を迎えました。先日親友のご家族とお祝いをした際、私は新成人の2人にアニック・グタールのオーデコロンをプレゼントしました。すっきりとした中にミステリアスな雰囲気、力強さが感じられる『マンドラゴール』というフレグランス。女性として自立、自律していくだけでなく、美しく生きる女性であってほしいという願いをこめて、この香りを選びました。

「香りにはドラマがある」この香りは娘たちだけでなく、誰よりも私のドラマになりました。私の20代の想い出と2人の20代につなげるような。こんな自己満足も、人生の彩りとなるのです。


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
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