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離島の住人に移住について尋ねると「これだけは必要」その言葉に豊かさを感じる

By - 吉元 由美  公開:  更新:

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吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さんが、日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…さまざまな『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

何もないという豊かな島

何もないとは、これほど豊かなことなのか。

町らしい町はなく、ホテルも古さを感じさせます。人もあまり歩いていない。ペンキが剥げた家々に、人が住んでいる気配はあまり感じられないほど、ひっそりとした島。

そんな、先日訪れた沖縄、久米島に流れている時間は、ゆるやかな中に豊かなエネルギーを感じられるものでした。4日間のひとり旅。ただただ海を見て、波打ち際を歩き、本を読む。静かな時間の贅沢を味わう旅になりました。

ひとり旅なので、誰かと話すのはホテルの人とのやりとり、レストランで隣になった年配のご夫婦とのちょっとした会話くらいです。会話らしい会話をしたのは、帰りのタクシーの中でした。

「何もなかったでしょ?」

「そうですね…おかげでゆっくりできました」

そう答えると、運転手さんは少し嬉しそうに、「そこがいいんよ」といいました。

「この島は自給自足しとるから、お金があまり必要ないんよね」

自給自足していると、お金を稼ごうとしなくてもいい…。これは、当然のようでありながら、新鮮なインパクトでした。たとえ自給自足していたとしても、もっと豊かな生活を求めるものではないか。また、美しい海という観光資源があるのですから、もっと観光客を呼び込もう…と考えてもいいと思うのですが、久米島の人たちはそう考えないようです。

「観光産業はどうなんですか?」

「そーねー、なーんもないもんね」

この島にホテルは三軒、夏やゴールデンウィークはホテルも家族連れでにぎわうそうですが、町にはこれといった観光客向けの施設などはありません。自給自足できている…観光化の波に巻き込まれていない島の穏やかなエネルギーは、シーズンオフだからというわけではないと思います。

「仕事は、朝からちょっとやって、4時には家に帰ってビールを飲むのが楽しみよ」

「あとの楽しみは、ジャイアンツの試合を観にいくことかな。楽天がここでキャンプするけど、ジャイアンツファンよ」

食べることに困らない。必要なものが必要なだけあり、あとは少しの楽しみがあれば幸せ…。現代社会の中では、そのメンタリティを持つのは容易ではないかもしれません。それがいいとか悪いとかではなく、自分が心地いいと思う場を分かっていることが大切なのだと思います。

何もない。何ものにも邪魔されない。ただ美しい海があり、人の静かな営みがそこにある。欲も、余計な感情もなく、「ただ楽しむ」ということを、この島は教えてくれました。

島の人たちは、移住してくる人たちに対してはどうなんですか? と聞くと、運転手さんは、「そりゃ、ウェルカムよ」と、声を弾ませました。

「ただし、人と協力できる人でないと、だめね。島ではみんなで協力しあってやることがあるからね」

空港の売店では、島で生産されたお土産を選んで買いました。自分が本当に大切なものを大切に、本当に望んでいることをする。久米島の4日間は、もしかしたら人生を変える時間になるかもしれません。


[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
吉元由美オフィシャルサイト
吉元由美Facebookページ
単行本「大人の結婚」

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